夢二:鈴木清順

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「夢二」は、「ツィゴイネルワイゼン」、「陽炎座」と並んで「大正浪漫三部作」と称され、鈴木清順の代表作である。大正時代のレトロな雰囲気を売り物にしているこの三部作は、幻想的な筋運びとともに、映像の美しさもポイントになっている。大正時代とロマン主義がどういうわけで結びついたか、いまひとつわからないところもあるが、映画の世界での大正時代のイメージは、レトロでかつ幻想的ということになっているらしい。

前二作と比べてこの「夢二」という作品は、やや迫力に劣るという印象を受ける。筋書きに締まりがないことが主な原因だが、主役の沢田研二の演技にも理由があるだろう。やはりどうひいき目にみても大根役者としか言いようがない。沢田は歌手としては一世を風靡してが、役者としてはついに一皮むけることがなかった。この映画は彼にとっての記念碑のようなものだ。いい意味でも、よくない意味でも。

大正時代に活躍した日本画家「竹久夢二」をテーマにしている。筆者は夢二のことはほとんどなにも知らないが、この映画を見る限り、淫奔な女たらしだったらしい。西洋の画家には女たらしはめずらしくなく、クリムトなどはモデルの腹に一ダース以上の子を孕ませたことで有名だが、夢二もまたその轍を踏んでいた、というふうにこの映画からは伝わってくる。実話なのか、でっちあげなのか、夢二に無縁な筆者にはわからない。

舞台は金沢だ。鈴木は金沢が好きらしく、「陽炎座」も金沢を舞台にしていた。その金沢に画家の夢二(沢田研二)がやってくる。恋人を東京から呼び寄せ、一緒に楽しもうという魂胆からだ。ところが恋人はなかなか現れない。代わって土地の旧家の嫁さん(鞠谷友子)とひょんなことから近づきになり、その女と懇ろになる。夢二が泊まっている旅館の女将(大楠道代)も、夢二に性的な関心を抱き、誘惑しようとする。それに東京からやってきた別の女も加わって、夢二は色男に生まれた喜びを謳歌するというわけだ。

どういうわけか、嫁の旦那というのが、百姓の女房をたらし込んだおかげで、その百姓から命を狙われる。しかし死ぬことになるのは旦那ではなく、百姓の方だ。百姓は自分で首を吊って死ぬのだが、夢二はその首吊りを手伝わされるはめになるのだ。

映画は夢二と彼を取り巻く女たち、旧家の旦那と彼を付け狙う百姓が、入れ替わり立ち替わり前面に出てきて、口上たっぷりに演技をしてみせる。その演技ぶりは原田芳雄演じる旦那がもっとも迫力に富み、沢田のほうはどうも精彩に欠ける。沢田が出てくるときには、女もかならずセットで出てくるのだが、その度に女のほうが強い存在感を示すのだ。

というわけでこの映画は、沢田の魅力を紹介することが大きな目的だったはずなのだが、その肝心な沢田が大根であるおかげで、映画は締まりがなくなっている。どうみてもこの映画のなかの沢田はでくのぼうにしか見えない。そんな男に抱かれたいと思う女はいないだろうと思われる。






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