プーチンが政敵のナヴァーリヌイを恐れるのは、ソ連の崩壊を自分自身の目で見たからだろう。あの盤石を誇った共産党ノーメンクラトゥーラが、ほとんど一夜にして崩壊した。その理由は色々あるが、国民の不満を体現した有力な政治家が現われると、政権は意外とあっけなく崩壊するものだということを、身をもって学んだに違いない。共産党の政権を崩壊させたのは、あの酔っ払いのエリツィンだった。プーチンにとってはナヴァーリヌイが第二のエリツィンになりかねない。そういう不安を抱いていればこそ、ナヴァーリヌイを慎重に封じ込めているのだと思う。
一方、プーチンの好敵手であるトランプのほうは、どうもオウンゴールで自壊しそうである。かつての盟友であったあのバノンですら、トランプを追い込むような言動をしている。今年中に、辞任を余儀なくされる可能性は否定できない。辞任しなくとも、トランプの求心力はほとんどなくなり、それに伴ってアメリカの国際社会における影響力も劇的に低下するだろうと予想される。つまりかつてのアメリカ一強による国際秩序の体制が崩れて、国際関係が流動化・多元化する可能性が高まるとみてよい。
その国際関係の流動化・多元化はほかならぬプーチンが望んでいたことだ。プーチンはアメリカの大統領選挙に介入することで、当選後のトランプを自分の都合のよい方向に操縦しようと図ったのだが、そのトランプがロシア疑惑を振り払おうとして、表向きにはプーチンに対してつれない態度をとっている。しかし別の事情からアメリカの威信を損なうような結果になっているわけで、プーチンは思いがけなくも所期の目的、つまり国際関係の流動化を享受できる見込みが立っているというわけだ。
国際関係が多元化・流動化することで、得をする大国がもう一つある。中国だ。中国はいまや大国として国際関係に影響力を及ぼすことを狙っているが、アメリカが強力なうちは、なかなか付け入るスキがなかった。ところがトランプのおかげで、その隙が生まれるわけで、中国としてはそれを最大限利用しようとするに違いない。世界はまずます分断され、大国同士が権力ゲームに興じる時代がやってくるように見える。
ところで当面の最大の国際問題といえば、米朝両国が核戦争を始める危険性だ。いまのところ、金正恩とトランプの対立は犬の喧嘩のレベルにとどまっているが、いつ何時暴発して全面戦争に発展しないとも限らない。そうなると一番被害を受けるのは日本だ。全面戦争ともなれば、北朝鮮がことのついでに東京を核攻撃しないとも限らない。そうなれば数百万人の日本人が死ぬ恐れがある。是非そうなって欲しくないものだ。不思議なのは、この深刻な事態を前にして、時の安倍政権が全くまじめな対応をしているように見えないことだ。安倍政管がやっていることは、トランプの尻馬に乗って北朝鮮を挑発するばかりだ。それが日本にとってどのような結果につながるか、どうもまったく考えている形跡がない。これは一日本人としては、しびれるくらいにたまらないことだ。(写真はロイターから)
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