遅ればせながらあひるたちの新年会を催した。場所は新宿の例の居酒屋。寒風の吹きすさぶ中をかけつけると既に四羽が集まってしゃべっていた。ミーさんあひる、横ちゃんあひる、今ちゃんあひる、それにシズちゃんあひるだ。これに小生を加えた五羽でとりあえず乾杯をした。ミーさんあひるとは一年ぶりですがお元気そうですね。顔の艶がとてもよい。いくつになりますか。そう聞かれたミーさんあひるが今年八十になりますと言うから、その年でこれだけ元気ならきっと百以上生きるのは保証付きですよ、あひるとしてはめでたい限りです、とほかのあひるたちから祝福されたのであった。
今ちゃんあひるは一年間浪人生活をしましたけれど、この春から勤めに出ることが決まったそうだ。また横ちゃんあひるも勤め口が見つかりそうだと言う。シズちゃんあひるはあいかわらず同じ職場で頑張っている。みなさん年を忘れて頑張っているのはあひるの共和国にとってよいことだと言って皆で改めて乾杯したのであった。
そのうち少尉あひるが加わった。少尉あひるは昨年の春に勤めを辞めていまは踊り三昧の暮らしをしているという。彼は郡上八幡で郡上踊りを踊って以来すっかり踊りの魅力につかれてしまったようだ。今年の秋は富山まで盆踊りをしに行くつもりですが皆さんもご一緒しませんかと誘う。すると横ちゃんあひるが、僕も一緒に踊ってみたいですと手を挙げたのだった。
今日はあんちゃんあひるはよんどころのない用事が出来て来られないそうだが、オーさんあひるは来る予定になっている。ところがなかなか姿を見せないのでどうしたのかしらとシズちゃんあひるがスマホで連絡をしたところ、今うちで晩酌をしている最中だと言う。あらまあ、今日はあひるの会の新年会で皆さん盛り上がってますよ、是非これからいらっしゃいなと言ったところ、オーさんあひるはこれから伺いますと答えたそうだ。どうやら今夜の会合を失念したいたらしい。ともあれオーさんあひるは中野駅に住んでいるので、新宿まではすぐ来られるのだ。
三十分ほどしてオーさんあひるが現れたので、みなで改めて乾杯をした。オーさんあひるはすこしくたびれかかったさしみと温めなおしたあさりの酒蒸しを食べながらうまそうに生ビールを飲んだのだった。
ところで去年の由布院はとても楽しかったですね。盆地を電動アシスト自転車で回ったのがいい思い出になります。そう少尉あひるが言うと、今ちゃんあひるは、あの自転車は弾みがつきすぎて怖かったです、おかげでオーさんあひるのお尻に突っ込んでしまいました。そう言うから小生は、あれは電動ではなくアシストにポイントがあるのだから、自動的に動いてくれると思ったら大間違い、ちゃんと自分でコントロールしなければなりませんと講釈したのだった。
ほかのあひるたちが由布院の湯に浸かっていた時、ミーさんあひるは別府温泉の地獄湯めぐりをしていたのだそうだ。ミーさんあひるは飛行機に乗るのが嫌いなので九州まで列車で行ったそうだが、なかなか快適だったそうだ。別府温泉へはどういう風の吹き回しで行ったのですかとほかのあひるが聞くと、奥さんあひると新婚旅行の思い出に耽りに行ったのだという答えが返ってきた。これには皆さんなんとも言えない表情を見せたのだった。
えかきあひるさんはお勤めにも出ずに悠々自適の暮らしをなさっているようですが、毎日何をして過ごしているのですかと聞かれたので、いま長編小説の執筆中です、二月になったらブログで連載を始めますから是非読んでみてください。自分で言うのもなんですがなかなか面白く書けていると思います。セックスのことなんかも積極的に取り込んでみました。そう小生が言うとシズちゃんあひるは、あらまあ、また緋色の愛ですの、といって冷やかしたのでした。そしてその小説の中に私も是非登場させて下さいなと言うのでした。
そのうち今年はどこに旅行しましょうかという話になった。少尉あひると横ちゃんあひるは富山まで盆踊りに行きましょうよと言ったが、小生は温泉に浸かりたいねと言った。するとほかのあひるたちも温泉に浸かりたいというので、それなら小川温泉にでも浸かりながら富山で盆踊りをしましょうよという意見もあったが、ミーさんあひるが東北の温泉はとてもよいですよと勧めた。ミーさんあひるは秋田の出身なのですが地元の乳頭温泉を是非お勧めしますと言うのだった。乳頭温泉は乳頭七湯といって七か所からなっていて、有名な玉川温泉もその一つです。玉川温泉の硫黄の湯につかりながら命の洗濯をするなんてどうでしょう。
ミーさんあひるがそう言って強く乳頭温泉を勧めるので、では今年の初夏にでも行ってみましょうかということになった。昨年のように現地でレンタカーを借りて七湯めぐりをするなんてとても愉快ではありませんか。ついでに酸ヶ湯にも行ってみたいわ、とシズちゃんあひるは言うのでした。
コメントする