聖女ジャンヌ・ダルク(Sainte Jeanne d'Arc):ルオーの世界

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ジャンヌ・ダルクは、フランスの歴史に屹立する偉大なキャラクターだから、様々な画家によってモチーフに選ばれてきた。田舎の家の庭先で神のお告げを聞く少女の姿だとか、魔女として処刑される場面がとりわけ好まれたが、ルオーは彼女を、鎧をまとい、馬にまたがった英雄の姿として描き出した。宗教画を本業としたルオーとしては、いささか人を惑わせるところだ。

ジャンヌ・ダルクは、英仏戦争の最中に現れたフランス側の守護神だった。シェイクスピアは、その歴史劇のなかで、イギリス兵をして彼女を「売女」と呼ばせているが、それは彼女に対するイギリス側の恐怖心の裏返しだった。それはフランス側にとっては、彼女が頼りになる存在だということを意味したわけだ。

この絵の中のジャンヌは、馬にまたがった颯爽たる姿であらわされている。フランス側の期待に応える希望の星であり、憎い敵を粉砕する心強い味方、そんなイメージがこの絵の中には込められている。したがってこの絵は、歴史画とか英雄的な感情をテーマにしたものだと考えてもよいのだが、ルオーはあえて聖女という言葉を使うことで、この絵がある種の宗教画だということを訴えたかったのだろうか。

晩年のルオーは、色彩がますます豊かになってゆくが、この絵もまたそうした豊かな色彩感覚にあふれた作品である。赤・青・黄の三原色をそれぞれ独立して、あるいは混色して使うことで、画面に色彩の氾濫のような効果を持たせている。ルオーの作品の中ではもっとも色彩に富んだものである。

(1951年 カンヴァスに油彩 30×24㎝ パリ、個人コレクション)






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