ヴェロニカ(Véronique):ルオーの宗教画

| コメント(0)
r45.1.jpg

キリストが十字架を背負わされてゴルゴタの丘へ向かう途中、大勢の群衆の中から一人の女性が前へ出て、布でキリストの顔を拭いてあげたところ、その布にキリストの顔が焼き付いたという話は、聖書にではなく、ニコデモの外典に出てくる話だが、聖書と劣らぬほど広く民衆の間に流布した。そして多くの画家が、その逸話をイメージ化した。ルオーのこの絵も、そうした伝統の上に立ったものである。

ヴェロニカをモチーフにした絵の大部分は、キリストの絵が浮かびあがった布を手にする女性を描いているが、ルオーのこの絵は、ヴェロニカの表情をアップで強調している。頭巾をかぶった頭をやや傾け、大きな目で前を見据えているその表情は、修道女を思わせる。額に刻まれた十字架が、そのイメージを一層強化している。

ヴェロニカの表情は、キリストの顔をそのまま女性化したように見える。黒く塗りつぶされた瞳、長い鼻、小さな口、といった特徴は、聖顔として描かれたキリストに瓜二つである。

全体に深い精神性を感じさせるが、それは寒色を基調にして、淡い暖色で肉体の暖かさを穏やかに表現していることからにじみ出てくるように思われる。ルオーの作品のなかでも、もっとも精神的な深さを感じさせる作品である。

(1945年 カンヴァスに油彩 50×36㎝ パリ、国立近代美術館)







コメントする

アーカイブ