新橋で中華料理もどきを食う

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山子夫妻、落、松の諸子と久しぶりに会って小宴を催した。場所は新橋駅前のビルにある過門香という中華料理屋。新橋で中華料理を食うなら新橋亭がいいのだが、新橋亭は値が張るのでここにした次第。だがその判断はあまり当を得ていなかったようだ。わけは後で言及する。

約束の刻限に会場の部屋に通されると、山子夫妻と松子がすでに来ていた。落子も追って現れた。彼は早く着きすぎたので、ガード下の一杯飲み屋で軽くやって来たという。すでにそれらしきほろ酔い加減の顔つきになっている。

山子が小生の顔を見て、ちょっと老けたんじゃないかと言う。ああ、髪を染めるのをやめて真っ白にしたせいだろう。そう小生が言うと、今までは染めていたのかね、と聞くから、ああ、三十台の終わりから染めていたんだ。それがもう年だから染めるのをやめたところ、このように真っ白になったってわけさ。そう言うと、眉毛も真っ白じゃないか。普通髪と眉毛とどちらかは黒く残るもんだが、あんたの場合には両方白くなってしまったんだね、とこれはちょっと小生に同情するようなことを言う。それで小生は、下のほうはまだ随分と黒いままなんだが、と言ったのだった。

すると松子が脇から口を出して、我々も年をとったから髪が白くなるのも致し方ない。あと五年もすれば髪が白くなるだけでは済まない人が出てくるだろう、とこれは至って情けないことを言う。

髪の次はオリンピックが話題に上った。他の四人はオリンピックには夢中になったと言った。とくにスケート競技は良かった。相変わらず女子の活躍が大きかったねと皆口を揃えて言うので、オリンピックには他の四人ほど夢中にならなかった小生も口裏を合せ、日本はやはり女で成り立っている国だからね。国が問題になるときには常に女が前面に出るものなのさ、と感想を述べた。各国対抗ともなれば男は常に女の尻のあとからついていくのさ。

ところで先日河津に遊びに行ったが、桜はまだだったな、と山子が言った。すると落子が、わたしは来週行くつもりなんだと言った。その頃なら満開になると思うよ、と山子が言うので、小生は、河津に行くなら安くてうまい店がある、そこへ行ったらよい、と勧めてやった。後でメールで情報を伝えてやるよ。

ところで今年はどこに旅しようかと松子が言った。まだ運転には自信があるので僕のベンツでみんなで行こうと言う。そこで小生は一台で行くのは窮屈でかなわんと不平を言うと、君は専ら助手席に乗せてあげるから、是非一台で行こうと譲らない。小生が助手席を独占するのは申し訳ないと言うと、そこは君のことを尊重して皆さん後ろの席で我慢してくれるから、その好意に甘えて助手席に乗りたまえ、そうすれば窮屈を感じないでもすむだろう、と強く主張するので、そこまで言うならその通りにしようと折れて出たところだ。

行先について松子はパンフレットを何枚か取り出して、それぞれ長所短所を説明しにかかったが、小生としては連れて行ってもらえるならどこでもいいよ、と答えた。そこで松子のベンツに五人で乗って北関東付近のどこか気の利いた温泉に浸かりに行こうということになった。

時期は六月の後半か七月前半にしようというから、できるなら秋にしてもらえないかと言ったところ、なぜこの時期じゃいけないのかと聞くから、家人が仕事を辞めて引退するので、その慰労にどこか旅行に連れて行ってやろうと考えていると答えると、落子が脇から口を出して、奥さんと旅をしたら是非旅先でセックスを楽しんだほうがいい。きっと若返るからと言う。それを聞いて山子の細君が複雑な表情をしていた。どうも我々老人たちは、淑女を前にして礼儀を忘れてしまっているようだ。

たった一泊の旅なんだから、そんなに大げさに考えることもないじゃないか。秋に行きたいのなら、六月と秋と二回行けばよい、と松子がかなり気楽なことを言うので、俺は君と違って懐が豊かなわけじゃないからな、と言うと、懐なんて気にしていたら楽しく生きていられないぞと言い込められた。そんなわけで六月の後半から七月の前半に、松子のベンツに五人で乗って、皆でどこか気の利いた温泉に浸かりに行こうということになった。

料理のほうは、始めに冷たいオードブルが出てきた後、ふかひれのスープとかサメのシュウマイ、エビのチリソース炒めくらいまでは何とか中華風だったが、そのうち豚肉の生姜焼きとか鶏肉の唐揚げとかわけのわからぬものが出て来た。それでこれは中華料理といえる代物なのかね、と小生が不服を漏らしたところ、自分で企画した人間がそんなことを言ってもよいのかといったような表情を呈しながら山子が値段相応なんじゃないか、と注釈を加える。まあ、新橋亭に比べれば安いことは安いが、特別安いといったわけでもない、それなりの料金はかかっているんだ。それを中華料理屋のくせしてこんな中華料理もどきのものを食わせるとはちょっとひどいね、とこれは幹事としての役柄を離れて小生が感想を述べたところだ。

料理はいまいちだったが、酒のほうはまあまあだった。我々は紹興酒の燗酒と常温のをかわるがわる飲んだほか、山子夫妻は赤ワインも相当飲んだ。我々五人はいずれもうわばみのような連中だから、酒代だけでももとを取ったと言える。だからトータルとしては不満を言うべき筋合いはなかったのかもしれない。





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