北京ヴァイオリン(和你在一起):陳凱歌

| コメント(0)
china12.violin1.JPG

陳凱歌の2002年の映画「北京ヴァイオリン(和你在一起)」は、中国人の親子愛をテーマにした作品だ。中国人の親子はとりわけ親愛の情が深いと言われる。そこには子によって老後を養ってもらいたいという親の側の打算もあるようだが、やはり4000年の歴史の中から、親子のつながりこそがこの世で最も大事なことだという思いが、中国人には染み込んでいるためだろう。その深い親子愛をこの映画はほろりとさせるような感覚で描いている。

もっともこの映画の中の父子は実の親子ではない。中年男が北京の駅に捨てられていた子どもを引き取って自分一人の手で育てたのだ。その子を拾ったとき、そばにバイオリンが置かれてあった。子どもが成長すると、このバイオリンを与えて練習させたところ、子どもは非凡な才能を示す。そこで父親は子どもの才能を伸ばしてやろうとして、あらゆることを犠牲にして子どもに尽くす。その泣かせるような父親の愛と、それに応える子どもの気持ちが中国人の胸にはえらく響くらしい。このドラマは映画で大ヒットした後でも、テレビドラマ化されて喜ばれたという。

この父子は江南地方の水郷地帯に暮らしていた。そこで催されたコンクールを見た父親が、自分の息子のほうがよほどうまいと思って、なんとか息子にしっかりしたレッスンを施してやりたいと思う。そこでなけなしの金をはたいて北京へ出てくると、評判のよい音楽家にレッスンしてほしいと頼む。一騒動あったあげくにその音楽家に本格的なレッスンを受けるようになる。

しかしその音楽家は教育は上手だが、弟子をデビューさせるだけの才覚はない。中国の社会では、音楽家は技術や才能ではなく、有力なコネで出世するようになっているのだ。そこで父親は別に有力な音楽家を見つけてきて、その人に自分の息子を託す。息子はその音楽家に気に入られて、いよいよデビューする段取りとなる。しかし息子は音楽家になると父親と一緒に暮らせないだろうと思い込み、演奏会をすっぽかして父親のところに駆けつける。父親は北京を去って郷里に引き上げるところだったのだ。

というわけで、虚勢に満ちた栄光より親子の関係のほうが大事だというメッセージをこの映画は発して終わるわけなのだ。

こういうタイプの映画は世界的にみてもそんなに多くはない。日本映画で親子の情愛をテーマにした傑作と言えば小津の「父ありき」などが思い浮かぶが、それはだいたい父親の視点から描いているものが多く、この映画のように親子のつながりをべったりと描いているものはほとんど無いといってよい。

いかにも中国らしい映画というべきだろう。日本では、親子の情愛をつらぬくために自分の出世をあきらめるというような映画は流行らない。

なお、二人目の先生である余教授を演じているのが監督の陳凱歌だそうだ。






コメントする

アーカイブ