不知火検校:勝新太郎の座頭もの

| コメント(0)
yakuza22.sira2.JPG

1960年公開の映画「不知火検校」は、勝新太郎主演の時代劇やくざ映画である。座頭をテーマにしていることで「座頭市物語」シリーズを思わせるが、直接の関係はない。しかし勝による座頭のイメージが強烈で、かつ似たところもあることから、座頭市物語のさきがけのように受け取られている。筆者自身長い間この映画を座頭市シリーズの一つ、それも嚆矢をなすものと勘違いしていたほどである。

座頭市シリーズの座頭市がめっぽう喧嘩が強いのに対して、この映画の中の座頭杉の市は腕っぷしは大したことはない。そのかわり悪智慧が働く。その悪智慧を悪用してさんざん悪事を働き、座頭の世界のあこがれの的検校の地位を手に入れる。しかし昔犯した悪事がばれてみごとお縄頂戴になるという筋書きだ。

杉の市は子どもの頃から悪智慧が働いた。祭りの祝儀に振る舞われた樽酒の中に鼻くそを入れて飲めなくさせ、その酒を桶に入れて家に持ち帰る。すると家ではお袋が待っていて、倅の智慧のおかげで日ごろ飲んだこともない剣菱を腹いっぱい飲むことができた。その点では親孝行で殊勝なところもある悪ガキだったわけである。

しかし大人になると杉の市は悪の限りを尽くす。東海道でたまたま行きがかりになった男を殺して所持金を奪ったり、女たちを次々と手籠めにかけては強姦する。また師匠の検校を悪党仲間に殺させて自分はその後釜になる。人間権力を握れば悪いことはし放題とばかり、杉の市の悪事にはいっそう拍車がかかる。

杉の市はついに将軍家の御姫様の療治に呼ばれる。将軍家に呼ばれるということは座頭の世界では無論、庶民にとっても出世の行き着くところだ。意気軒高となった杉の市は籠に乗って洋々とした気分になる。ところがそこに妻を杉の市に手籠めにされ、そのおかげで妻が死んだことに恨みをもった旗本が現れ、杉の市を討ち果たそうとする。

杉の市はいったんは無礼者と言って相手を威嚇するが、次いで町奉行が現れて杉の市の悪事をあばき、からめとろうとする。周りにいた民衆は日ごろ杉の市に意趣をもっていたので、みなで揃って杉の市に石を投げつける。石を投げられて血だらけになった杉の市はついにお縄をかけられ、大八車に乗せられて引きずられていくのである。

こんな具合にこの映画は、さんざん座頭杉の市の悪事を描いた後、観客がそれにうんざりさせられたところで、当の杉の市を成敗するという構成をとっている。そのため観客は前半でさんざんやきもきさせられた後で一気にカタルシスを経験し、気分がすっきりするというわけである。

悪が裁かれるという点では座頭市シリーズとはかなり異なっている。座頭市シリーズの座頭市は悪ではあっても男気があって、もっと悪い奴らを懲らしめるという役柄だ。にも拘わらずこの映画の中の杉の市と座頭市との間に関連が認められがちなのは、勝新太郎の俳優としての独特のキャラクターのせいだろう。






コメントする

アーカイブ