ロンドンでYMCAを聴いたこと

| コメント(0)
歌手の西城秀樹が亡くなった。享年六十三というから筆者よりも六つも若い。自分より若い人が死ぬと、今度は自分の番かと思ったりもする。年をとるとはそういうことなのだろう。

西城秀樹の名で筆者が思い起こすのは、YMCAという歌だ。1979年に大ヒットした。この歌を筆者はロンドンで聞いたことがあったのだった。といっても西城秀樹の声ではない。ウェストエンドで楽しんだミュージカルの中で歌われていたのだ。

あれは筆者が下の息子が十一歳の時にロンドンに連れていった時のことだから、ちょうど四半世紀前のことになる。この旅行の間に、筆者はミュージカルを楽しんだのだったが、そのうちの一本が「ホットスタッフ」といって、モーツアルトの「魔笛」を思わせるような、探検をテーマにした楽しいミュージカルだった。そのミュージカルの中でテーマソングのように歌われていたのがYMCAだった。この歌を筆者は日本で聞いたことがあったので、日本の歌が先か、あるいはこのミュージカルの方が先か、いささか思い悩んだりしたのであるが、そんな思いを吹き飛ばすように、歌そのものを楽しんだ。

ロンドンのミュージカルというのは観客サービスが旺盛で、舞台に観客を挙げて一緒に歌ったり、逆に俳優が観客席に下りてきて一緒に歌ったりする。筆者のところにも、このYMCAを歌っていた主演女優がいきなり舞台を下りて突進して来たかと思うや、抱きつかれて、ほっぺたにキスされたことを覚えている。おそらくアジア人といえば筆者だけで、しかも小さな子を連れていたので、珍しく思ってサービスに及んだのだろう。

そんなことがあったので、この歌は筆者の心に強く残ったのだと思う。筆者がロンドンでこの歌を聞いたのは1993年のことで、西城秀樹が日本で歌ったときより十年以上もたっていた。普通なら十年以上も経てば、たいていの歌は忘れられてしまうようだが、このYMCAは日本人にいつまでも愛され続けた。それには西城秀樹の歌いぶりがおおいにあずかっていたのだと思う。いまでも筆者の耳の奥に彼の歌声が鳴り響いているのを感じる。





コメントする

アーカイブ