マイ・フェア・レディ(My Fair Lady):ミュージカル映画

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1964年のミュージカル映画「マイ・フェア・レディ(My Fair Lady)」は、日本では「ウェストサイド・ストーリー」と並んで最も成功したミュージカル作品である。というのもこの映画には、オードリー・ヘプバーンが主演していたからだ。日本人は「ローマの休日」以来この女性にすっかりいかれてしまって、男は無論、女たちにも愛されていた。男は彼女を理想の伴侶として愛し、女は彼女を自分の理想の姿として手本にしたのだった。

オードリーの魅力には、若い頃の筆者でさえいかれたくらいであるから、特別の何かが彼女にはあったのだろう。しかし歌声にはあまり恵まれていなかったようだ。というのもこの映画の中で彼女が歌う場面では、彼女の本物の声はほとんどなく、別の女性の声で拭きかえられていたのだ。映画の中の彼女は、我々日本人には本当に歌っているように聞こえるが、注意して聞いていれば、ただ口をパクパクしていただけなのである。歌が命のミュージカル映画で、自分が本当に歌っている歌が披露されないことに、オードリーは複雑な気持ちを抱いたという。

歌を別にすれば、この映画の中のオードリーは抜群の演技ぶりだ。この映画は、下層社会の下品な花売り娘が上流階級の女性顔負けの淑女に鍛え上げられていく過程を描いているのだが、オードリーの演技は下品な花売り娘としても、上流階級顔負けの淑女としても、圧倒的な存在感を示し得ている。

レックス・ハリソン演じる変わり者の音声学者ヒギンズが、オードリーのコックニーなまりを矯正して、クィーンズ・イングリッシュを発音できるばかりか、上流階級の身だしなみも身に着けられるように特訓して、その効果が表れたところで上流の社交界にお披露目をし、自分の勝利を確認したいと思う。そしてそれについて友人の大佐と賭けをする。しかしオードリーはあまりにも下品な仕草が身についていて、なかなか自分の思うとおりにならない。それでも辛抱強く訓練しているうちにその効果が表れ、彼女はついに社交界によって認められる存在となる、というような筋書きだ。

そこでヒギンズの目的は達成されたわけで、オードリーにはもはや利用価値はなくなったわけだが、それを露骨に示すヒギンズに怒ったオードリーは家を出て行ってしまう。そこで初めてヒギンズは、自分にはオードリーのいない生活は考えられないと気付く。そんな彼の前にオードリーが戻って来て、二人はめでたく結ばれるだろうと観客に確信させながら映画は終るというわけである。

映画の見せ場は何と言っても花売り娘オードリーのじゃじゃ馬ぶりだろう。オードリーはいわゆるコックニーなまりの言葉を連発する。I did(しました)をI done(やらかした)と言い、母音が正しく発音できないで、Just you waitをジャスト・ユー・ワイトと歌ったりする。また、アスコット競馬場に連れていかれた場面では、紳士淑女を前にして That is very kind of you と澄まして言っていたものが、競馬を見て興奮するや、Come on, Dover, move your bloomin' ass!(ドーヴァー、もっとケツを振って走れ!) と叫んで、周囲を唖然とさせる始末である。

こうした演技を自然に演じられるのは、年齢的にも三十歳を超えて、人間に幅と深みが出て来たためだと思われる。

とにかく、全編にわたって楽しく、嫌味のない映画である。日本人が夢中になったのも無理はない。






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