悲しき口笛:美空ひばりの映画

| コメント(0)
hibari01.kuti4.JPG

美空ひばりといえば、昭和の歌姫と呼ばれ、日本人にこよなく愛された。とりわけ小生の母親の世代には圧倒的な人気があった。小生の母親(昭和四年生まれ)もひばりの大ファンで、どんな用事があってもひばりの歌声に耳を傾けることを優先したものだった。外出先でも、ラヂオでひばりの歌が流される番組を必ずチェックしていて、その時間が近づくと、息子である小生に向かって言ったものだ。さあ、ひばりちゃんの歌が始まるから帰らなくちゃね。

そんなわけで小生も美空ひばりが好きになったのだった。美空ひばりは歌もうまかったが、映画の演技もなかなかだった。なかにはひばりは大根だったと言って排斥するものもいるが、小生はそういう輩の言うことはまともに受けない。ひばりが嫌いな奴は、小生にとっては敵も同然だ。

そのひばりは、生涯に多くの映画に出演したが、とりわけすばらしいのは、少女時代の映画だ。このサイトで映画論を展開している小生としては、少女時代のひばりの映画に触れないわけにはいかない。それは小生の母親に対する愛着がしからしめるということもあるが、やはりひばり自身に人を引きつける魅力があるからだと思う。

「悲しき口笛」はひばりが十二歳の時の作品で、大ヒットした同名の歌をフィーチャーしたものだ。この歌を映画の中のひばりが歌う。子供ながら、しかも女の子ながら、燕尾服に山高帽のいでたちで歌うその姿は、子供と大人の境にあるような、不思議な感じを見るもの聞くものに与える。ひばりのもっとも素敵な一面を描き出した作品と言える。

作られたのは昭和二十四年のことで、敗戦による混乱は一応落ち着きつつある時期だったが、映画は戦争の犠牲者たちを改めて取り上げている。ひばり自身は戦災孤児となって横浜の港で浮浪児の生活をしていることになっているし、ひばりのまわりには大勢の浮浪者たちがたむろしている。ひばりはそうした浮浪者たちのマドンナのような役柄なのだ。

その小さいマドンナがけなげに生きながら、生き別れたただ一人の兄を探す。兄は兄で妹を必死に探し求める。その過程で菅井一郎と津島恵子が演じる父娘との触れ合いや、ギャングたちとの葛藤などがあって映画に色を添えているが、何と言っても見どころはひばりが歌うシーンだ。

兄妹は最後に再会を果たし、共に暮らすことができるようになる。しかもひばりを実の妹のように可愛がってくれた津島と兄とが結婚するという喜びも加わる。ここは映画としてはいささかゆるい筋書きと言えなくもないが、そこはひばりの魅力が補って余りある。

というわけでこの映画は、ひばりの魅力が十分に盛り込まれており、ひばりファンにとっては必見と言える。






コメントする

アーカイブ