村上レディオを聞く

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村上春樹がFM放送でディスク・ジョッキーをやるというので、一か月前から楽しみにしていた上に、家人からラディカセを借りて、事前に音の調子を試したりして準備万端整えて放送開始に臨んだところが、ちょうど夕飯時に重なったので、ラヂオを食卓に持ち運んだら、食事中ラヂオを聞くのは行儀が悪いから、ラヂオを聞き終わってから食事にしなさいと言われたが、村上レディオを聞いた後では引き続きNHKのセゴドンを見たいから食事をしている暇がなくなるといって、小生はそのまま食卓の上にラヂオを据えたまま、耳にイアホンを突っ込んでラヂオを聞きつづけたのだった。

イアホン越しに聞こえてくる村上の声は思ったよりも若々しく聞こえた。とても小生と同年配の声には思えない。小生の声は最近いかにも老人らしくなってしまって、自分で聞いても情けないほど弱々しいのだが、村上の声はまるで男盛りを思わせるようで、人間声だけで判断できるのなら十分女性を惑わせる力も持っていそうだ。その村上が音楽をかけながらおしゃべりをするのは、ディスク・ジョッキーという建前上のことだ。村上のかける音楽は殆どがジャズだったが、村上がジャズにのめり込むようになったのは、1960年代に日本にやって来たジャズ・メッセンジャーズの公演を聞きに入って以来のことだそうだ。その際ウェイン・ショーターもメンバーにいたが、後にそのショーターとニューヨークで逢った時に、昔あんたの演奏を聞きにいったと話したらショーターから大変懐かしがられたという。

村上のかけた曲の中にノッキン・オン・ヘヴンズ・ドアがあったが、それはボブ・ディランが歌ったものではなく、別の歌手がカバーしたものだった。村上はディランの曲が好きだそうだが、この晩はなぜかディラン本人の声ではなく、別の歌手の声で歌われるディランの曲をかけたのにはなにか因縁でもあるのか。

村上宛に多くのファンレターが届けられて、そのなかには村上への質問もありそれらがいくつか紹介されたが、村上は二者択一的な質問とか仮定の質問には答えられないと言ってほとんど答えなかった。たしかに愚問と思われるような質問ばかりで、村上でなくともまともに答えられる人はいないだろう。唯一まともな質問は好きな言葉は何かというものだったがこれについては村上は、スライストーンの言葉「馬鹿でもわかる曲を書く」をあげた。馬鹿でもわかる曲ばかり書けば世のなかにバカはいなくなるだろうという理屈だ。ちなみに村上の小説も馬鹿でもわかるようなやさしい言葉で書かれている。そのやさしい言葉でむつかしいことを話されると、聞いている方はどんなむつかしいことでもやさしいと思い込まされてしまう。

村上は走ることが好きなことで知られているが、この晩も走る事へのこだわりを話した。彼は高校生時代から走ることが好きで、自分が走っていると女の子から声援を受けたと、これはのろけのようなことを言った。やはりそのへんは年をとって自制心がゆるんでいることのあらわれなのかもしれない。ともあれ体を動かすことは特に年をとってからも大事だ。村上もとくに下半身がしっかりしているとうまい文章が書けると言うが、それは小生の経験に照らしても言えることだと思う。

こんな調子で結構楽しめる番組だった。





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