豊穣たる熟女たちと法師温泉につかる

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法師温泉は一軒宿とはいっても、大小四つの建物からなっている。そのうちの本館と言われる建物は明治八年に建てられたもので、国の重要文化財に指定されているそうだ。木造のクラシックな造りで、現状を重視するあまり客室にはトイレや風呂の設備がない。その本館を中心にして、それぞれの建物や温泉施設が渓流を挟んで並び立っている。その眺めだけでも目の保養になる。最近はその眺めの良さと温泉の風情を求めて外国人たちもやってくるようになったそうだ。同じ水上温泉郷の宝川温泉が、映画「テルマエロマエ」で紹介されたことで、世界中から客が集まるようになったそうだが、ここも最近「テルマエロマエ」続編で紹介されたために、俄に外国人が来るようになったという。そんなこともあって、大層な繁盛ぶりで、この日も三十三ある客室がすべてうまっているそうだ。

我々は本館の一部屋に案内された。十畳と六畳の続きの間で、往昔与謝野鉄幹と晶子の夫妻が宿泊した部屋だという。その続きの間の六畳を小生の寝部屋にあて、熟女たちは十畳でゆっくり休んで下さいと言ったら、なにも襲ったりしないから、一緒に楽しくしましょうよと慰められた。

お茶を飲んだあと早速風呂に浸かりに行った。ここは混浴で有名なところですから、どうですか混浴をご一緒しませんかと誘ったところ、いまさら混浴もありませんから私らは女専用風呂に浸かりにいきますとかわされた。そんなわけで小生はひとり手拭いをぶら提げて混浴で有名だという法師の湯に浸かりに行った次第だ。

浴室は、男女別の更衣室と湯船からなっている。湯船は何本かの丸太でいくつかの空間に区分けされているが、これがどんな目的からか小生にはわからなかった。例の高峰三枝子が上原謙と入浴するシーンを写した特大ポスターが玄関口に貼られていたが、それを見ると二人は丸太越しに肩を並べて湯につかっているのだった。

お湯は単純アルカリ泉だと言う。大分ぬるめの湯だ。おそらく長く浸かっていられるように工夫されているのだろう。小生が湯船に入った時に湯に浸かっていたのは数人の白髪頭の老人ばかりだったが、そのうち二人の女性が入って来た。二人とも最初は更衣室の戸をあけて湯船のなかを伺う様子だったが、やがて裸で入って来た。どちらも三十歳前後の若さだ。おそらく中にいるのが白髪頭の老人ばかりとあって、安心したのだと思う。一人などは、小生の目の前に一糸まとわず立ちはだかったが、けっこう肉がしまっていて、若い男の目には毒になっただろうと思われる。もう一人のほうは男の相棒がいて、これはその様子からして、夫婦というより恋人同士に見えた。

湯から上がった後、部屋で熟女たちに混浴の様子を話してやったら、そんな話に乗せられて混浴したりはしませんよと、固い決意を明らかにされるのみだった。

夕食は別室で振る舞われた。ししなべをメーンにして、あゆの塩焼きとか山菜の和え物とか、山の中の旅館らしく簡単だがなかなか味わい深い料理を振る舞われた。味はなかなかよかった。部屋担当の仲居さんがここでも我々の世話を焼いてくれて、給仕の合間に色々な話を聞かせてくれる。この旅館は山の奥にあることから、昔はそんな賑わいはなかったが、例のフルムーンの舞台になったことで全国的に有名になり、また最近は映画「テルマエロマエ」の続編に紹介されたせいで、水上温泉郷全体がさびれる傾向にあるなかで、結構の賑わいを見せているとのこと。今晩も満室ですといったようなことを話した。

食後NHKのテレビドラマ「セゴドン」を見た。この番組を小生は毎週楽しみに見ていて、今晩も是非見たいと熟女たちに言ったところ、私らも毎週見ていますから、今晩は一緒に見ましょうと言ってくれた。ただ、最近は戦争の場面ばかりで殺伐としていますね。私らは戦争の場面は好みませんと釘を刺された。釘をさされたからといって、小生が恐縮しても始まらないのだが。

その後、また風呂に浸かりに行った。八時以降は、混浴風呂が女性専用に切り替わるので、熟女たちはそちらに浸かりにゆき、小生は玉城の湯というものに浸かりに行った。これは混浴の法師の湯より幾分か熱めの湯で、露天風呂も併設していた。その露天風呂に浸かりながら夜空を見上げると、十六夜の月が明るく輝いていた。

風呂から上がったあとは、十畳の部屋に四人集まって世間話に耽った。小生は持参したウィスキーを舐めながら、熟女たちにも飲みませんかと勧めたところ、私らはもう飲めませんという。それは珍しいことですねと言うと、年をとったせいで酒を飲む気力が衰えたのよと言う。それは気の毒なことだ。生きる喜びが少しづつ欠けて行くのでは、生きている張合いが段々なくなるではありませんか。飲む喜びとセックスの喜びに遠ざかったら、あとは食べる喜びだけですか。

こんな他愛のないことを話しながらも、我々の会話はなかなか心に響くものになった。会話のなかでもM女の体力の低下が一際話題になった。いまからこんな調子では今後旅行もままならなくなりますから、来年の旅行にそなえて体力の強化につとめなさい。そうすれば生きている喜びが多少は増すのだからと、皆でM女を励ましたのであった。

しかしそういう我々にも、長くは話す気力が続かない。十一時前にはすっかり眠くなってしまって、それぞれ布団に潜り込んだ次第だ。布団ははじめ、四人分並べで敷かれていたが、それを男女にふりわけて、小生は独りで六畳の間に寝たのであった。







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