新13階段への道

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ナチス指導者たちの戦争犯罪を裁いた国際軍事裁判、いわゆるニュルンベルグ裁判の様子を、記録映像をもとに再現したドキュメンタリー映画「13階段への道」が作られたのは、1957年のドイツでだが、それからほぼ十年後、アメリカにおいて、同じような趣旨のドキュメンタリー映画が、「新13階段への道」と題して公開された。

この映画も、死刑判決を受けた受刑者の絞首刑の様子を映し出すことから始まる。13階段というのは、彼らを吊るした場所にある階段の段数だったのだ。死刑執行に先立ち、被疑者への判決が読みあがられるのだが、その様子は、被告席に居並ぶ面々に向って、連続的に読み上げられるというものだった。東京裁判においては、被告は一人づつ呼び出され、判決を言い渡されたので、これは両裁判を通じての最大の相違だろう。

その東京裁判の様子を描いた小林正樹のドキュメンタリー映画は、四時間半を超える大作とあって、裁判の様子とか、日本の戦争遂行の様子などをきめ細かく再現していたが、こちらはわずか一時間半の長さとあって、至極簡単に触れられている。

ヒトラーの権力掌握、周辺国への侵略、パリ占領と独ソ戦、ソ連兵の捕虜を収容するために設けられた強制収容所が、後の絶滅収容所のモデルとなったこと、スターリングラード攻防戦の失敗を契機にドイツ軍の勢いに陰りが出てきたこと、ヒトラーの盟友ムッソリーニがイタリア人民衆によって殺されたうえに曝し者にされたこと、米軍のノルマンディ上陸とナチスの敗退といった歴史的出来事が淡々と紹介され、最後にマイダネックやトレブリンカの絶滅収容所において、膨大な数のユダヤ人が殺されたことが紹介される。

東京裁判の場合には、裁判の正統性への疑問とか、被告が潔く振舞ったことへの称賛とか、製作者の主観的な意図がかなり濃厚に盛り込まれていたが、この映画の場合には、そうした政治的な意図は感じさせない。おぞましいとはいえ、起った出来事を淡々と紹介するといった扱い方になっている。

アメリカで作られたということもあり、ナチスドイツへの批判的な視点が全編を支配していることは明らかだ。だがその視点は、あまり表面化はしない。膨大な歴史資料のなかから、ナチスの犯罪と言ってよいような出来事、たとえばポーランド人の無差別殺害とか、ユダヤ人を対象にしたホロコーストとかを取り上げた点に、そうした批判的な視点が働いていることを感じさせるのである。





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