ラ・フィネット:ヴァトーのロココ世界

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「ラ・フィネット(La Finette)」と題するこの絵は、フィネット布のドレスをまとった若い女性の肖像。フィネットは、絹を素材にした繊細な布地のこと。その布地で編んだドレスを着た若い女のモデルはわからない。「眺め」の画面でポーズをとった人々と関係があるのかもしれない。

ヴァトーの特徴である、田園の緑を背景にした優雅な人物という構図を指摘できる。もっともこの絵の場合、背景の風景は極端に単純化され、その分、前景の女性が強く浮かび上がって見えるように工夫されている。背景をこのように思い切って単純化するのは、ヴァトーの絵の中でもめずらしい。

ポイントは、女性の愛くるしい眼と、楽器を抱えた左腕の優雅な曲線である。とりわけ女性の眼にはインパクトがある。この眼のおかげで、女性は人形のように愛くるしく見える。その愛くるしさは、愛の天使を思わせる。

衣装の描き方にも、典雅さを表現しようとする工夫がみられる。ボリューム感のあるフリルが、日の光を反射して複雑な明暗を現出している。

小品ながら、非常に見せ所の多い作品である。ロココ的な美意識の一つの典型といえるのではないか。

(1716年 カンバスに油彩 25×19㎝ パリ、ルーヴル美術館)





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