アメリカの素人外交が世界を危険にさらす

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アメリカが世界で唯一の大国になったことで、アメリカ外交はまずまず独善的になった気がするが、それにはさまざまな事情が働いている。その中でもっとも深刻なのは、アメリカの高級公務員がメリット・システムに従って、政治的な動機から任用されていることだ。その結果、内政はともかくとして、外交を担う高級公務員が素人によって担われ、知識と経験の裏付けをかいた、その場限りの決定がなされるため、世界中を危険にさらすような決定がなされがちになる。そうした危険性を指摘した論文が、ネット・オピニオン誌POLITICOに掲載されている。How Foreign Policy Amateurs Endanger the World Political appointees have too little experience and too many delusions.By DEREK LEEBAERT

この論文は、ケネディ以後歴代のアメリカ大統領のもとで、外交や国防を担った高級官僚について、その経歴や知的能力を分析しながら、かれらがいかに現実から遊離した決定をしがちであったか、その結果アメリカやその同盟国の安全を損なってきたか、詳細に検討している。

これらの高級公務員は、政治的な動機から任命されるため、多くのケースで専門性に立脚した適切な能力を欠き、イデオロギー先行の抽象論に傾きがちである。その極端な例としてこの論文があげているのは、ケネディ時代のマクジョージ・バンディとオバマ時代のスーザン・ライスだ。二人とも外交を担う重職についたとき、外交の実務については全くの素人で、ただイデオロギーだけをたよりに決定した。そのイデオロギーとはアメリカは世界の唯一の指導者であり、アメリカの利害に役立つものはずべて正義にかなっているというものだった。そういう考えをもとに、かれらは非常に独断的で破滅的な決定をした。現実を無視したそれらの決定は、アメリカ自身の利害にも、ほとんどの場合反していたとこの論文は断定している。

バンディもライスも民主党政権の高官だが、共和党にしても民主党よりましとは言えない。この論文は、ニクソン時代の外交担当者キッシンジャーについて厳しい評価をしている。キッシンジャーといえば、日本では非常に評判がいいのであるが、この論文は厳しい見方をしている。キッシンジャーは、基本的には、アメリカの国益ではなく、自分のメンツを判断基準にしていたというのだ。それでもアメリアの外交が一定の成果を収めたのは、キッシンジャーの功績ではなく、かれをうまく使ったニクソンの度量のおかげだ、というような評価をこの論文はしている。

ともあれ、この論文が強調していることは、アメリカの人事制度が伝統的にメリット・システムに基づいており、専門的な能力ではなく、政権への忠誠にもとづいて選ばれることに、諸悪の根源があると言いたいようである。

こうした傾向は、最近は日本でも見られるようになった。とりわけ安倍政権は、人事権を乱用して、自分にとって都合のよい人材を高級公務員に起用してきた。内閣法制局長官や日銀総裁の人事はその典型だが、その結果日本の官僚制が劣化したのはともかく、日本の政治にも深刻な悪影響が出る始末である。某現日銀総裁などは、金融についての基本的な知識も持ち合わせておらず、ただひたすら自分を任用してくれた政治家への忠誠心だけで行動してきたため、日本経済が深刻な機能不全に陥っていることは周知のことである。

メリット・システムが絶対悪であるとは限らず、また、官僚の専門性が信頼できない場合もないではないが、しかし、政治的な動機だけで選ばれた高級官僚が、一国にとって好ましい結果をもたらすとはいえないようである。





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