シテールへの船出:ヴァトーのロココ世界

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「シテールへの船出(L'Embarquement pour Cythere)」は、ヴァトーの代表作であるのみならず、ロココ芸術を代表する傑作である。ロココ的な典雅な雰囲気がもっとも豪華絢爛に表現されている。ヴァトーはこのモチーフを二点制作しており、パリにあるものが最初に作られ、その一年後にベルリンにあるものが作られた。

シテール島とは、ギリシャ神話に出てくる伝説の島である。ヴィーナスが泡から生まれたすぐあとに、西風ゼフュロスが彼女をシテール島へ運んだという。以来シテール島は、ヴーナスの島とか、愛の島とか呼ばれるようになった。ヴァトーの二点の作品は、恋人たちがその愛の島に向かって船で旅立つ様子を描いたものである。

上の絵は、パリにある作品。海辺の船着き場らしいところを舞台にして、画面右半分に三組の男女、左半分に五組の男女が描かれている。左手の先には、船の一部がのぞき、右手の先にはヴィーナスの石像が描かれている。この八組の男女は、ヴィーナスに見送られながら、船に乗ろうとしているのであろう。先端のカップルは、船のへりに到着し、いまにも乗り込まんとする様子である。一方最後尾のカップルは、やっと立ちあがろうとしている。要するにこれらのカップルは、順に船に乗り込もうとして、それぞれのタイミングを計っているわけである。

男女の表情をつぶさに見ると、みな浮きたっているように見える。これらは、愛の島で互いの愛を深め合おうと思っているかのようである。男女の愛のもつれあい程、ロココ美術の精神に相応しいものはないのだ、というばかりに。

(1717年 カンバスに油彩 129×194㎝ パリ、ルーヴル美術館)

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こちらは、ベルリンにあるもの。この絵は、ヴァトーのパトロン、リュシエンヌの求めに応じて制作された。パリのものより完成度が高いといわれる。カップルの数が増え、船もマストの部分が描き加えられている。また、右端の石像は、キューピッドをしたがえたヴィーナスである。

(1718年 カンバスに油彩 130×192㎝ ベルリン、シャルロッテンブルグ宮殿)





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