右傾化する日本:日本の右翼

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小生がこの一文を書いているのは2022年の7月だ。ちょうど参院選があったばかりで、自民党が圧勝、改憲勢力が三分の二の多数を占める一方、政権批判勢力は大きく後退した。投票日直前に安倍晋三元総理大臣が元自衛隊員によって殺害されるハプニングもあった。安倍といえば、日本の右傾化を先導してきた人物であり、日本における右翼の定義として、安倍の個人的な言動が基準にされるほど、日本右翼の象徴的な存在である。その安倍の死は、右翼への打撃になるどころか、むしろ右翼の国民運動化へ向けてのモメンタムを強めるのではないかと思われるほどである。日本の右翼は安倍の殺害をテロリズムと位置づけ、右翼を批判するものもテロリストの一派と見なしている。しかもそんな安倍を国葬しようとする動きも、政権中枢の周辺で強まっている。安倍を国葬にすることで、安倍の体現する右翼思想を、日本の国是にしようとでもいうかのようである。

ともあれ、日本の右傾化に安倍の果たした役割りは偉大というべきであろう(この「偉大」ということの意味は、「ヒトラーは偉大である」というのと同じような意味での「偉大」である)。安倍の巧みなことは、庶民の心に直接働きかけることである。近年における日本の庶民層の最大の関心事は、日本経済の沈没ともいえる停滞ぶりによって生活基盤をおびやかされていることであり、日本の国際社会におけるプレゼンスの低下に伴い民族的誇りが傷つけられていることである。経済的な不安については、いわゆるアベノミクスによって経済の活性化を訴え、民族的な誇りの毀損については、民族意識の高揚に訴えることで、庶民層を右傾化に導くことに成功した。アベノミクスの本質は新自由主義であって、かならずしも貧困層にフレンドリーではないのだが、安倍は新自由主義による経済の活性化が、庶民層にも恩恵をもたらすという理屈で、それを支持させることに成功した。日本の庶民層には御人好しなところがあって、かつては、やがて自分たちをひどい境遇においやるような政策を打ち出した小泉純一郎を熱狂的に支持したこともあったのである。

民族意識の高揚という点では、安倍は歴史修正主義をうまく活用した。民主党政権以前には、日本の対中関係も対韓関係も比較的安定してしたのだったが、それは日本が東アジアの一員として、隣国への配慮を怠らなかったからでもある。ところが、日中関係は尖閣問題をきっけけにして一気に緊張した。すでに民主党時代に日中対立は激化の兆候を示していたが、安倍政権になると、対立に火を注ぐような対応をとるようになり、泥沼化する様相を見せている。また、日韓関係については、従軍慰安婦問題や徴用工問題をめぐって新たな対立が起きた。それについて安倍政管は居丈高にふるまい、そのことで関係を悪化させる一方で、庶民層の対韓イメージを大きく悪化させることに成功した。安倍政権は、日中・日韓関係を悪化させることを逆用して、日本の国内向けには、歴史修正主義の推進に成功したのである。もともと安倍は、日中・日韓関係における日本政府の弱腰を強く批判してきた。だから、かれにとって、いわゆる歴史修正主義は、修正ではなくで正常化なのである。

そうした安倍の動きは、安倍やその取り巻きだけでできるわけではない。広範な層に支持されなければならない。そうした安倍を支える層が、今日の日本では形成されている。一つは明確な政治的意識をもった右翼団体(日本会議に代表される)であり、一つはネトウヨと呼ばれるような草の根右翼とでもいうべき連中である。日本会議は政権中枢と直接的なつながりを深めることで、政策の右傾化に成功している。目下のところかれらが注力しているのは民族主義的政策であるが、究極的には現行憲法を廃棄して明治憲法のような体制の復活をもくろんでいる。

日本会議は、かなり庶民を動員した運動に注力しているが、そのターゲットはあくまで政権中枢にある。政権中枢を自らの意思に従わせることで、日本の右傾化を完成させようとしているのである。それに対してネトウヨと呼ばれる連中は、明確な意思によって組織されたものではなく、自然発生的に生まれてきたものである。それにはインターネット技術の普及という背景がある。ネットの普及によって、これまで表現手段を持たなかった層が、自らの意思を表現するようになった。そのうち、右翼的な考えを抱いている層が、ネット空間に大きな影響を及ぼすようになって、それが日本社会全体を下から右傾化させる草の根運動のような観を呈しているのである。

だが、日本会議にしろ、ネトウヨにせよ、日本社会になかにそうしたものを生みだす土壌があったからこそ生まれてきたものである。その土壌はもともと存在していたものではない。すこしづつ改良されながら形成されてきたものである。そうした土壌改良の推進力となったものは、日本社会全体の右傾化といってよいのではないか。なぜ日本社会が右傾化してきたのか、その原因については、それ自体が大きなテーマであるが、その右傾化を日本会議とネトウヨが主たる担い手となり、それぞれ役割りを分担しながら日本社会全体の右傾化を進めてきたといえる。

安倍晋三という男は、もともと右翼とは親和的であって、そうした右翼の力を利用することにたけていた。今般不慮の死に見舞われた背景に、右翼団体とのつながりが指摘される。統一教会というのは、一応宗教団体を標榜しているが、右翼的な政治活動でも知られている。安倍の祖父岸信介が、統一教会と深いかかわりをもっていたことは歴然たる事実である。安倍は祖父の衣鉢をついだかたちで、統一教会とかかわってきたようである。今回の安倍の殺害について余計な穿鑿をするのはひかえるが、安倍が新旧右翼と密接な関係をもっていたことは指摘できよう。

ともあれ日本は、安倍の死を乗り越えて、ますます右傾化していくことが予想されるのである。






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