マグダレンの祈り:カトリックの女性更生施設を描く

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2002年のアイルランド・イギリス合作映画「マグダレンの祈り(The Magdalene Sisters)」は、アイルランドにおける女性への社会的虐待をテーマにした作品。性差別意識に基づく女性への虐待は、21世紀のタリバンの例を持ち出すまでもなく、世界中に普遍的に見られた事象であったが、この映画で描かれた女性虐待は、家族から拒絶されたり社会に居場所を失った女性たちが、いかに悲惨な境遇に陥るかを、言語を絶するようなリアリティを以て描かれており、見ていてため息が出てくるほど陰惨な映画である。

舞台はカトリック教会が運営する修道院。社会的に遺棄された女性たちの更生施設ということになっている。更生施設とは名ばかりで、要するに施設に閉じ込めて虐待するというものである。修道女たちが入所者を組織的に虐待する。修道女たちには、自分たちは神の命を受けて堕落した女たちを鍛えなおしているのであり、虐待しているという意識はないのであるが、それだけに彼女たちの虐待は常軌を逸している。無意識の虐待ほど恐ろしいものはないのだ。

その施設にある日、三人の若い女性が入れられてくる。マーガレットは、従兄から強姦されたのだったが、それは強姦した男が悪いのでなく、された女にすきがあったということにされる。そのうえで彼女は、親に恥をかかせたという理由で家族から捨てられるのだ。ローズは、結婚しないで子供を生んだことを理由に、子供を養子として奪われた上に、施設に送られてくる。彼女には社会の居場所はないのだ。バーナデットは孤児院で育ったが、素行が悪いという理由で施設送りになる。女性たちを送り込む側は、厄介払いした気持ちになり、受け入れた修道院は、女性たちの労働を搾取しながら、彼女らへの虐待を楽しむのである。

あまりにひどい虐待は身体的なものにとどまらず精神的なものにも及ぶ。このままここにいては、心身ともにボロボロにされてしまうと考えた彼女らはそれぞれに脱出を試みる。ローザは成人した弟が姉への愛情にかられて助け出してくれたが、バーナデットとマーガレットは自力で脱出する。彼女らが施設で仲良くなったクリスピーナという女性は、神父を批判したことを理由に精神病院送りになる。精神病院は、更生施設よりもっときびしく、脱出不可能なところとみなされている。そこに入れられたら、人間としての存在はなくなるのだ。じっさいクリスピーナは、拒食症になって24歳で死んだというアナウンスが流される。他の三人はそれぞれ独り立ちすることができた。

そんな具合で、社会から捨てられた女性が隔離施設で虐待されるというテーマは、アメリカ映画「カッコーの巣の上で」を想起させる。「カッコー」では、施設から憎まれた入所者の男はロボトミー手術を施されて廃人にさせられたのだったが、この映画では、もてあまされた女は精神病院送りになる。アイルランドでは、精神病院というのは、治療のための場ではなく、社会からの究極的な隔離の場なのだと思わされる。

その隔離と虐待を行っているのがカトリック教会だというところがショッキングだ。カトリック教会の弱者虐待は、世界中でいろいろ暴露されているが、アイルランドではそれが、社会的に容認されているようである。まさか21世紀の現在でもそんなことがおこなわれてるとは信じがたいが、かつては普遍的な事象だったというふうに伝わってくる。

映画の舞台となった修道院はマグダレン修道院という。マグダレナのマリアを守護聖人としているところだ。マグダレナのマリアは娼婦が改悛して聖女となったのだったが、それと同じようにお前らも、改悛してまともな人間になりなさいと修道女たちは入所者の女性たちに説教する。そこがもっとも不気味なところだ。






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