21世紀も脱亜入欧にこだわる日本

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雑誌「世界」の最新号(2023年1月号」に寄せられた文章の中で、「交錯する『二つの西洋』と日本の『脱亜入欧』」(西谷修)という文章がひときわ印象深く受け取られた。この文章は、いま世界を騒がせているウクライナ戦争の背後に、「西洋(西欧+アメリカ)のロシアに対する伝統的な敵意を読み取る一方で、日本がその「西洋」の一員たらんとして、新たな「脱亜入欧」を目指していることを指摘しているのだが、それが小生にとって印象深く映ったのは、折からの岸田政権の動きが念頭にあったからである。岸田政権は、ウクライナ戦争に乗ずる形で防衛予算の倍増政策を打ち出す一方、その強化された防衛力で、「敵基地攻撃」能力を獲得しようとしている。その「攻撃能力」をもって、アメリカと連携しながら、日本に敵対する国に対して、戦争をしかけることも辞さないと言っているのである。その戦争の相手、つまり攻撃すべき国が中国であることは、前後の事情を踏まえれば明白なことだ。つまり日本はアメリカとともに近い将来対中戦争に踏み切る意思を、内外に示したといって過言ではない。

安倍政権以来なし崩しにすすめられてきた軍事国家への道筋が、岸田政権に到って大手を振って示された形である。日本は、西洋以外では唯一、他国を支配する側に立った国で、台湾・朝鮮を植民地化するとともに、中国への侵略を行ってきた。それを思想的に裏付けたのが「脱亜入欧」である。日本は西洋諸国と仲良くしながら、アジアの諸国に対しては主人としてふるまう資格があるというものだった。この思想は、日本の敗戦によって、一時的に封印されたのだが、戦後七十年を経たいま、力強く復活しているようである。そうした日本の野心を、日本にとって主人筋の国であるアメリカも許容している。その理由は、対中戦争に際して、日本を同盟国として参加させることにあり、その際に日本が強力な武力をもつことは望ましいという判断があるものと思われる。

ウクライナ戦争から推察するかぎり、アメリカは対中戦争に対して直接の当事者とはならない可能性がたかい。しかし中国を叩くためには戦争は避けられないとみるだろう。その場合、選択される可能性が高い戦略は、ウクライナ戦争同様の代理戦争である。つまり、台湾をけしかけて中国と戦わせる。そのためには巨額な軍事援助をいとわない。その代理戦争に日本も巻き込む。日本は台湾よりもはるかにすぐれた軍事力をもっているから、それを有効に使えば、中国を叩きのめすことができる可能性が大きくなる。そう考えておかしくない。

日本には台湾マフィアというべき勢力があって、その連中は、台湾を中国にとられることは何としても避けたいと考えているだろう。アメリカも台湾にはかなりの利権を持っているので、無条件で中国に渡すようなことはしないと思われる。一方、中国を地図から消してしまおうとまでは思っていないだろう。いまの共産党政権が崩壊して、体制変換が起こり、中国がアメリカ資本にとって魅力ある市場になれば、それでよしとするだろう。アメリカは、中国を国際社会に導きいれることで、中国がアメリカ資本の草刈り場になることを期待したらしいが、現実には中国市場を支配できていない。逆に、巨大IT産業などが、中国市場から事実上締め出されている。そういう状況を転換させ、中国をアメリカ資本の草刈り場にできれば、それで満足するのではないか。

しかし、日本は、中国とは経済だけの関係ではない。歴史的な因縁にからまれているし、なによりも隣人同士として健全な関係を形成することが死活的に重要である。にもかかわらず、あたかも「西洋」の一員のごとくふるまい、アジアの隣国と敵対するようでは、この文章の作者がいうように、新たな「脱亜入欧」だと言われても仕方がないだろう。





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