松本佐保「熱狂する神の国アメリカ」

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アメリカは信仰の自由を求めた人々が中心になって「建国」されたという事情があって、宗教が政治に大きな影響を及ぼしてきたと言われる。レーガンやトランプが大統領になったのも、保守的な宗教人口に支えられてのことだとされる。松本佐保の「熱狂する神の国アメリカ」(文春新書)を読むと、アメリカ政治史における宗教の役割がよくわかる。


アメリカでは、数十年単位で宗教的感情が高揚する傾向があるという。その高揚感は主に保守的な人々によって担われている。その保守層を、近年のアメリカでは共和党が引き寄せてきた。ニクソン、フォードの頃までは、共和党は穏健な保守であったが、レーガン以降、極単に保守化する。それは、キリスト教における福音派の影響が拡大したことの結果ということらしい。福音派は、アメリカ流のキリスト教原理主義というべきもので、これの影響力が高まると、アメリカ政治が極端に右にぶれる。

この著作は、トランプが大統領になる前に書かれているので、ブッシュ・ジュニアまでをカバーしているにすぎないが(オバマは例外的に宗教と距離をおいていたのであまり言及していない)、それでも、レーガンに始まった共和党の右傾化が、ブッシュ・ジュニアにいたって一つのピークを迎えたとみている。その後トランプが登場して、さらに右にぶれたわけだが、それをキリスト教の保守層が支えた。最近の特徴は、福音派などのプロテスタント保守と、カトリックが連携していることだ。カトリックにはもともと保守的な傾向が見られたので、それがプロテスタントの保守層と結びつくのは不自然ではないということらしい。

それにしても、歴代の大統領が、民主党、共和党を問わず、特定の宗教層をバックにしていることは、アメリカがいかに宗教的な国柄だということを感じさせる。日本では、政治家が宗教性を感じさせることはほとんどないといってよいが、アメリカでは、宗教抜きでは、政治は語れないということらしい。

そんなアメリカで、大統領が公然と宗教を語るようになったのは、レーガンからという。レーガンは、キリスト教の保守層に熱狂的に支持されて大統領の座をいとめた。かれは離婚体験があるように、もともと熱心なキリスト教徒ではなかったにかかわらず、キリスト教を政治に利用することがうまかった。そのひそみにならうかのように、レーガン以降の大統領もキリスト教を支持基盤にすることにつとめた。特にブッシュ・ジュニアは、熱心なキリスト教徒であることを、売り物にした。かれは決して有能な政治家とはいえなかったが、キリスト教徒に支持されたおかげで、二期にわたって大統領をつとめることができた。

著者は、アメリカにおいて、キリスト教がいかに人々の生活に密着しているか、それを肌で感じたという。とくに最近よく話題に上るメガチャーチは、単に宗教的な場であるにとどまらず、人々の交流の拠点としての役割を果たしている。人々はメガチャーチで牧師の説教を聞く一方、付属する施設で買物をしたり、娯楽を味わったりする。要するに生活の場になっているわけである。そのメガチャーチを中心として、アメリカのキリスト教系の宗教団体は、アメリカ人の宗教的な囲い込みというべきものの実践に成功している。

そんなわけで、アメリカはますます宗教的になりつつあり、その宗教的な熱気がトランプのような型破りな政治家を産み落としたということになるらしい。





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