「ベストセラーが照らすアメリカ黒人の生」を読む

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雑誌「世界」最新号(2023年1月号)のアメリカ特集のからみで、秋元由紀・押野素子の対談「ベストセラーが照らすアメリカ黒人の生」が掲載されていて、大変興味深く読んだ。二人とも女性のアメリカ研究者だそうで、アメリカに暮らした経験があり、アメリカにおける人種差別の根深さを肌で知っているようである。アメリカの人種差別といえば、白人による黒人の差別が基本で、それに加え、アジア人やヒスパニックが白人の差別の対象になる。白人の黒人差別は、奴隷制の歴史に根ざしたもので、そう簡単にはなくならないし、場合によっては露骨な形をとることもある。それに比べれば日本人を含めたアジア人は、黒人ほど露骨な差別はうけないが、しかし、強烈な差別意識を感じさせることはあると、二人は言う。とくに、アジア人が優秀で白人と同等の能力を発揮するような場合に、差別が表面化する。黄色いくせして、身の程をわきまえない奴だというわけである。

身の程をわきまえないという非難は、無論黒人に対してもっと露骨になされる。だから、いわゆる出世した黒人は白人の憎しみの対象になりやすい。出世した黒人はたえずストレスにさらされるおかげで寿命も短いという統計があるそうだ。

とにかく、アメリカでは、いまでも黒人は目立たないように生きないといけない。夜間目立つ姿で買い物に出かけることは、身の危険につながるというから、アメリカが黒人にとっていかに危険に満ちた国であるかがよくわかる指摘である。

作家の赤坂真理が、中学生時代にアメリカに留学したときの経験を語っているが、黄色人種の彼女はいじめの対象となり、白人のマッチョな小僧からレープされないようにつねに気を配っていたそうだ。アメリカは日本と違い、腕力の強いやつが腕力の弱いやつをいじめる。赤坂の場合には、女として腕力が弱いうえに、黄色人種ときているから、レープを含めた露骨ないじめにさらされやすかったのであろう。

この対談は、アメリカの人種差別をテーマとした本をとりげて、それを二人の視点から批評しているのであるが、そうした本を日本人が読む場合、とかく白人の視点に立ちがちだと二人は言う。たしかに自分を白人のように考えている日本人はいると思う。だが、彼女らによれば、日本人は白人ではないのであり、白人にとって対等な人間とは思われていない。目立たないように行動しているかぎりは、露骨に差別されることはないが、身の程をわきまえずに目立ったりすると、激しい差別に直面することは、二人が実際に体験したことだという。

なお、二人はモハメド・アリに好意的である。モハメド・アリほど人に愛された黒人はない。それはかれが人に対して温かだったからだという。そのアリが多くの白人によって目の敵にされている。それは、アリが「自らの行動や生き方を通して、アメリカの欺瞞や差別と向き合い、それを露わにした。それが、アメリカという国の正義を信じる一般の白人に受け入れられない」(秋元)からだというのである。





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