アンドレイ・ズビャギンツェフ「ラブレス」:ロシア人家庭の崩壊と権力の腐敗

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アンドレイ・ズビャギンツェフの2017年の映画「ラブレス(Нелюбовь)」は、現代ロシア社会における家族の崩壊をテーマにした作品。それに警察の腐敗を絡ませてある。ズビャギンツェフには、地方行政の権力の腐敗をテーマにした作品「裁かれるは善人のみ」があり、権力の腐敗ぶりによほど意趣を持っているようである。警察も権力そのものなので、それを批判することは、政権批判を意味するだろう。じっさいズビャギンツェフはプーチン政権に眼の仇にされているそうだ。

家庭の崩壊は、夫婦の不和から起きる。ロシアでも、とりわけ都会では、核家族が支配的であるらしく、夫婦の不和は家庭の崩壊につながるらしい。不和の原因はさまざまだろうが、この映画では、夫婦のそれぞれが相手に愛を感じず、ほかにパートナーを求める。夫のほうはすでに新しいパートナーを妊娠させているし、妻のほうも中年男とのセックスを楽しんでいる。そこでかれらは離婚して夫婦関係を清算したいと思うのだが、一人息子の処遇をめぐって対立する。二人とも息子を引き取る気がないのだ。それを察知した息子が姿をくらます。さすがに放置しておけないと考えた妻が警察に届け出る。警察は取り合わない。妻は夫に相談するが、互いに協力し合う関係にはない。そんな中で、ボランティアの組織が息子の捜索に協力してくれる。だが息子はついに戻らず、夫婦はそれぞれ新しい生活に入る、といった内容である。

この映画がショッキングなのは、親子の情がまったく感じられないということと、警察が全く機能していないということだ。親子の情が薄くなっているのは、ロシアだけのことではないと思うが、息子がいなくなって、重荷から解放されような気になる親はそうあるものではないだろう。また、警察の腐敗ぶりにも驚かされる。失踪事件にさえまったく関心を示さないのでは、ちょっとした犯罪の取り締まりにも動かないに違いない。小生はロシアに旅行して治安の悪さを感じることがあったが、それは警察が機能していないからだろうと、あらためて思った次第だ。

警察の穴を市民団体が埋めている。それも結構規模の大きな団体が、かなり大がかりな捜索をする。任意団体だから、捜査の手法に限界はあるが、市民がそれに協力的なのは、警察に代わって活動していることが評価されているからだろう。この映画を見ると、プーチン政権下のロシアがかかえる様々な問題を感じさせられる。





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