習近平の中国とどう向き合うか

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雑誌「世界」最新号(2023年2月号)の中国特集のうち、福田康夫元首相へのインタビュー記事を興味深く読んだ。最近アメリカが中国に対して敵対的な姿勢を強め、それに呼応するかたちで日本でも中国脅威論が高まっているが、福田はそうした傾向に警告を鳴らしている。福田といえば、自民党内の保守派に属しているので、とかくタカ派的なイメージで見られがちだが、「習近平の中国とどう向き合うか」と題したこのインタビュー記事を読む限り、穏健な立場に立っており、日本の対中政策がもっと現実を踏まえた、しかも自主性をもったものになるように願っているようである。

福田は、日中国交正常化交渉の経緯を踏まえ、日本が中国にたいしてもっと謙虚であるべきだといっている。中国は日本の戦争責任を厳しく追及することはなく、損害賠償請求もしなかった。それは日本の新しい政治指導者を信頼し、日中両国の関係が発展的なものになることを期待してのことだった。ところが実際には、日本の政治指導者は中国に対して無神経な態度をとり続けた。歴代首相の靖国参拝はその最たるもので、中国の人々に、日本は全く反省しておらず、歴史から学んでいないと思われてもしかたがなかった。日本側では、こまかいことをいうなという雰囲気が強いが、中国側からすれば、ゆずれない問題なのだ。

アメリカや日本をはじめ西側では、最近の中国の軍事力強化について脅威感を煽るような言説が行われているが、中国の一定程度の軍事力強化については、中国として言い分がある。中国は、福田によれば、「軍事力を持たない国が蚕食されてしまったという歴史的経験をもっている。そのため、当然、自分たちも強くならなければいけないという思いがあります」ということになる。たしかに中国には、欧米諸国や日本によって侵略された苦い歴史がある一方、自分から大っぴらに侵略した好戦的な歴史は指摘できない(対ベトナム戦をどうとらえるかという問題はあるが)。

台湾問題については、福田は、習近平の「一つの中国」に理解を示す一方、具体的には大陸と台湾とが平和的な話し合いで決めるべき問題だといっている。その場合に、台湾の人々の意思を無視する形で統一が図られるのは望ましくないと考えているようで、基本的には台湾住民の意思を尊重する形での決着が望ましいと思っているようである。場合によっては、台湾の民意にもとづいた独立もありうるということなのだろう。

台湾の独立問題については、同じ特集の中の「『一つの中国政策』は覆せない(岡田充)」という小論が否定的な見解を寄せている。この小論は、米中及び日中間の国交回復の経緯を踏まえ、台湾問題をめぐっては、当事国(台湾を除く)の間に「一つの中国」が確認されてることを根拠にして、台湾独立はそれに真っ向から反するものであって、したがって重大な現状変更になるといっている。アメリカも日本も中国非難の根拠を中国による現状変更に求めているわけであるから、自らがその現状変更を行って台湾独立に手をかすのは、重大な約束違反ということになる。著者(岡田)の見立てによれば、最近の日米による中国敵視政策は、日米側からする重大な現状変更の試みということになる。

アメリカが中国を敵視するにはそれ相当の理由があるのかもしれないが、日本が中国を敵視する積極的な理由は見当たらないというのが、福田の本音の意見のようである。かれが日本外交の自主性を強調するのは、アメリカの顔色をうかがうあまりに、自国の利益を損なうなといいたいからであろう。





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