事務所の人々:ドガの風俗画

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1872年の秋、ドガはアメリカのニュー・オリンズに住む弟ルネの招きで、しばらくその地に滞在した。ルネは、母方の親戚をドガに紹介した。その折に、フランスでは有名な画家として知られているといわれたので、親戚たちはドガの絵に異常な関心を示し、かれの仕事の邪魔をしたばかりか、自分たちの肖像画を描いて欲しがった。そんな暮らしにドガはうんざりして、早くパリに帰って、好きなように絵を描きたいと思った。

「事務所の人々」と呼ばれるこの作品は、「ニュー・オリンズの綿花取引所(Portraits dans un bureau, Nouvelle-Orléans )」とも呼ばれるように、叔父が関わっている綿花取引所を描いた集団肖像画である。部屋の中央に綿花を積んだテーブルがあり、その周囲を大勢の人間が囲んで、それぞれ忙しく働いている。ただ、中には暇そうにしているものもいる。画面ほぼ中央で新聞を読んでいるのは、ドガの弟ルネだ。また、左奥で両肘を窓の桟に寄せてリラックスしているのは、別の弟アシルである。画面手前で綿花の具合を確かめているのは、叔父のミシェル・ミュッソンである。

アメリカ南部は綿花地帯であって、ニュー・オリンズは綿花産業の中心地だった。そうした産業の活気というようなものが、この絵からは伝わってくる。

この作品は、1876年の第二回印象派展に出展され、ドガの絵としては初めて公的な美術館(ポー美術館)によって買い上げられた。

(1873年 カンバスに油彩 73×92㎝ ポー美術館)






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