山本薩夫「忍びの者」:伊賀忍者と信長の対決

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山本薩夫の1962年の映画「忍びの者」は、大映の永田雅一に招かれて作った作品である。それまでメジャーの映画会社と縁のなかった山本を、共産党嫌いの永田が招いたのは、山本の実力を評価したからだといわれる。その評価と期待に応えるようにして、山本はこの映画を、大衆受けのする娯楽映画として作った。実際この映画は大ヒットし、後続編が作られたほどである。

山本はしかし、共産党員として、原作を共産党機関紙の連載小説から選んだ。村山知義の同名の小説である。その小説は、石川五右衛門と百地三太夫を結び付けて、忍者の世界の非情さを描いたものだ。厳密な歴史考証がなされているわけではなく、ほとんど荒唐無稽な話といってよいが、徳川時代には民衆の間に人気の高かった話であり、立川文庫にも取り入れられていた。

原作はともあれ、映画は、石川五右衛門が百地三太夫の命を受け、織田信長の命を狙う様子を描く。それに絡ませて、五右衛門と三太夫の妻との不倫とか、五右衛門の遊女への愛などが描かれる。

五右衛門の信長殺害計画は成功せず、かえって百地ら伊賀忍者の拠点が信長によって殲滅させられ、三太夫も殺されてしまう。だがそれが五右衛門にはさいわいし、かれは忍者の世界とは縁を切って、好きな女と一緒になることができるのである。

そんなわけで、子供が喜びそうな、単純な活劇映画である。こんな映画でも、映画を作れないよりましだと考えて、山本は割り切ったようである。なお、五右衛門を大映の看板スター市川雷蔵が、信長を勝新太郎が演じている。信長は天をおそれぬ冷酷非道な人間として描かれている。伊賀の忍者は、信長の冷酷非道を懲らしめるために立ち上がったということになっている。





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