岡真理「人権の彼岸から世界を見る」:西側の二重基準を批判

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先日、雑誌「世界」最新号(2013年3月号)のウクライナ戦争特集を批評した中で、岡真理の「人権の彼岸から世界を見る」についても触れておいたが、この小論はなかなか考えさせるものがあるので、別途取り上げて論評してみる気になった。

この小論は、今般のウクライナ戦争における西側の態度を、イスラエルに対するそれと比較して、その落差の大きさに注目し、それを二重基準だと批判したものである。ロシアのウクライナへの侵略は、あきらかに戦争犯罪といえるものであり、それが許されないとすれば、イスラエルがパレスチナ人に対して行っている暴力行為も許されるべきではない。それを黙認している西側は、だから二重基準に従って行動している。そう言って岡は、西側の二重基準を厳しく批判するのである。

イスラエルは、東京都区部の面積の半分の土地に200万人以上のパレスチナ人を閉じ込めて、この16年間は外部との接触さえさせなかった。その状態を岡は「世界最大の野外監獄」だと言っている。そこに閉じ込めたパレスチナ人をイスラエルは4回にわたって軍事攻撃した。これは「人間を袋の鼠状態にして無差別に殺戮するという、人間性の底が抜けたような」ことだと言って岡は憤慨するのだ。

こうした「攻撃目標に釣り合わない圧倒的火力による攻撃とは、国際法が定める敵対行為の均衡原則に反する戦争犯罪である」と岡は言う。「国際法に照らしてロシアのウクライナ侵攻が非難されるなら、イスラエルも同様に非難されねばならない。そうならないのは、『国際社会』の二重基準のせいである」。ところが、いわゆる「国際社会」は、日本も含めて、ガザのパレスチナ人がイスラエエルに反撃するのをテロと言って非難する。これは倒錯としか言いようがない、と岡は義憤をぶつけるのである。

岡の言うことには、いちいち納得できるものがある。たしかにイスラエルがパレスチナ人に対して行っているのは、ジェノサイドというべきである。岡は、イスラエルのパレスチナ人への虐待が、人命の殲滅にとどまらず、パレスチナ人社会全体の殲滅を狙っていることを「ソシオサイド」と言っている。小生もかつて、イスラエルにおけるユダヤ人のパレスチナ人虐殺をホロコーストと呼び、それを、ユダヤ人がドイツ人から受けたことへの意趣返しを、本来ホロコーストとは関係のないパレスチナ人相手に行っていると批判したことがあるが、岡の批判は、そうした道義的な見地からの批判にとどまらず、法的な見地からも批判しているのだと思える。

岡は最後に次のように書いて、この小論を結んでいる。「ロシアの侵攻は非難されねばならない。だが、平和の真の敵はプーチンではない。普遍的人権や国際法の『普遍性』を切り崩す、国際社会の二重基準こそ、私たち世界市民が戦わねばならない敵である」。実に明快な議論である。

ネタニヤフが再び政権を握ったことで、イスラエルによるパレスチナ人へのジェノサイドあるいはホロコーストが、またぞろ始まりそうな勢いである。今度こそ国際社会は、ロシアに対すると同じ基準に従って、イスラエルを非難すべきだろう。でなければ、国際社会に正義は存在しないということを、自ら認めることになる。

(イスラエル・パレスチナ問題についての小生の見解については、次のURLを参照願いたい。https://philosophy.hix05.com/Israel/israel.index.html)






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