山本薩夫「戦争と人間第三部完結編」

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山本薩夫の映画「戦争と人間第三部完結編」は、昭和12年の日中戦争全面開始から昭和14年のノモンハン事件までを描く。この戦争に伍代財閥も大きな利害を持つ。だが、次男の俊介(北王路欣也)と二女順子(吉永小百合)は戦争に批判的だ。また、二女の恋人耕平は、官憲に拘留されて拷問を受けた後、徴兵され、やがて満州の戦いに駆り出される。その耕平と順子はは徴兵に先立って結婚する。また、俊介はノモンハンの戦いに駆り出される。

これらの人物を中心にして映画は展開する。見どころは、かれらへの官憲のすさまじい拷問とか、いわゆる内務班におけるリンチ、日本軍による中国人への暴力である。内務班のリンチは、「真空地帯」で、官憲の拷問は「松川事件」でそれぞれ陰惨な描き方をしていた山本だが、この映画では、さらに迫力ある描写になっている。また、日本軍が中国人に暴力を加えるシーンは、子供を犬ころのように殺したり、女を裸にして強姦するシーンをは挟んだりで、いっそうあくどいイメージを掻き立てる演出になっている。こんなシーンばかりを見せられたら、普通の日本人なら嫌気がさすのではないか。この映画は、第一作・第二作と比べて客の入りが悪かったというが、日本人の醜いところばかりを強調するような演出に嫌気がさされた可能性がある。

戦争が佳境に入ってくるということもあり、軍人が多く登場する。ノモンハン事件が主なテーマだから、関東軍の軍人たちがたくさん出てくるのだが、それらがみな一様に馬鹿面に見えるように工夫してある。たしかにかれらがおろかだったことは事実だが、そろいもそろってこんな馬鹿面をしているようでは、戦争に勝てないのも無理はないと感じさせる。この映画が作られた1970年ごろにはまだ、先の戦争指導者に対する嫌悪感が残っていたので、軍人を馬鹿面に描くことに抵抗はなかったのだろう。

山本は、戦時中の左翼への弾圧とか、軍内部の暴力的体質に強い拒絶感を持っていたと思うが、それにしても、この映画の中での官憲や軍人の野蛮な振る舞いの描き方は、ちょっとやりすぎの感がないでもない。





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