山本薩夫「皇帝のいない八月」:自衛隊のクーデタ計画

| コメント(0)
yamamoto21.kotei.jpeg

山本薩夫の1978年の映画「皇帝のいない八月」は、自衛隊員たちのクーデタ計画をテーマにした作品。小林久三の同名の小説を原作としている。原作は、1961年に起きた自衛隊員によるクーデタ計画「三無事件」をモデルにしているという。その事件は、元自衛隊員らが起こしたものだが、あまりにもずさんな計画で、警察によって検挙・鎮圧された。

この映画では、事件は1980年代に起きたと設定され、かなり大規模なものとして描かれている。戦後35年もたった時点で、なぜこんなクーデタ騒ぎが起きたか、それについては、あまり立ち入った背景説明はなされていない。熱狂的な国家主義者が、国家の危機を救うために立ち上がったということにしている。その熱狂的な国家主義者の指導者を渡瀬恒彦が演じているが、かれの表情や思想には三島由紀夫の影を認めることができる。

映画は二時間を超える大作で、一応スケール感はあるが、どこかしらしまりのない印象を与える。三無事件をモデルにしているとはいえ、全体が架空の事件として描かれているために、現実感覚がともなわず、緊迫感に欠けるのだ。吉永小百合が渡瀬の妻の役で出てくるが、この夫妻の関係も現実離れしている。吉永は、もともと山本圭演じる男の恋人だったのだが、渡瀬に強姦されたあげく、その妻になることを承諾したということになっている。しかし、彼女自身にも右翼的な傾向があって、自分を強姦した男に共感するようになった、というような無理な設定になっているのだ。

というわけで、荒唐無稽というのが見ての印象だ。その荒唐無稽の中に、ところどころ日本社会への批判を盛り込んでいるのは、山本の愛嬌といったところか。なお、無法な暴力のシーンが多くさしはさまれる。自衛隊が治安出動して反乱軍を射殺するのはともかく、反乱軍が列車を乗っ取って罪もない乗客を巻き添えにしたりする。法治国家では考えられないことが、さもありなんというふうに描かれている。その反乱軍を背後で操る腹黒い政治家が出てくるが、これは見た目に岸信介を想起させる。





コメントする

アーカイブ