西側が中国のウクライナ停戦案に消極的なワケ

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中国がウクライナ戦争について、ロシアとウクライナの仲介役を買って出、停戦案を提示したところ、NATOは消極的な反応を見せている。中国は事実上ロシアの同盟国で、中立的な立場ではないから、信用できないというのが表向きの理由だが、それとは別に、もっと深い事情があるようだ、その事情を理解するためのとっかかりを、ある文章が提供してくれる。ネット・オピニオン誌POLITICOに掲載された "Here's How Ukraine Could Retake Crimea By Cacey Michel" という文章である。

この文章は、ウクライナ戦争を終わらせるための条件として、クリミア半島のウクライナへの返還をあげている。これまで西側諸国は、ロシアによるクリミア半島の一方的な領有を認めてこなかったが、しかしその返還をウクライナ戦争集結のための条件とはしてこなかった。とりあえず、昨年2月の侵攻以前の状態にもどすことを条件とし、クリミアの返還は長期的な課題と考えてきた。それはブリンケンなども同様で、クリミアまで持ち出すと、停戦交渉が進まないと考えたからだろう。ところが最近、NATO首脳はじめ、西側のリーダーの間で、この際、クリミア返還を和平交渉の条件にすべきという考えが広がっているというのである。そうした状況を踏まえ、この文章も、ウクライナの長期的な安定のためには、ロシアにウクライナを返還させるべきだと主張している。

こうした主張が出てきたのは、西側がロシアを恐れなくなったことの現れなのだろう。これまで西側諸国は、ロシアとの直接対決が全面的な核戦争に発展することを恐れて、いまひとつ及び腰なところがあった。ところが戦争が長引き、ウクライナが善戦する一方、ロシアは疲弊するばかりで、もしかしてウクライナが勝つかもしれない、という推測が、西側を対ロシアで強硬な姿勢に転換させつつあるということらしい。

この調子だと西側は、ロシアを徹底的にたたき、自分から降参を申し出るようにさせるのが当然だと思うようになる可能性が高い。しかし、その可能性が実現するためには、ロシアは絶対核兵器を使わないということが前提になる。西側はどうも、いままでのロシアの態度から、ロシアは自身の破滅につながる核兵器の使用は絶対しないと思っているふしがある。しかしそれは、たいして根拠のあるものではない、というべきだろう。

西側が中国の停戦案に消極的なのは、人種的な偏見によるものと思われるが、ロシアに対する傲慢な姿勢は、文明論的な偏見に基づいているのだろう。そういう偏見が、世界を抜き差しならぬ対立と分断に陥れている。





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