クリント・イーストウッド「許されざる者」:老いたる賞金稼ぎ

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クリント・イーストウッドの1992年の映画「許されざる者(Unforgiven)」は、賞金稼ぎをテーマにした西部劇である。賞金稼ぎというのは、一時期の西部劇ブームで大きな存在感を示していた。こういう輩が開拓時代のアメリカで活躍したのは、その時代のアメリカ社会の治安の悪さのためである。犯罪の被害者となった者が、司法に期待できないために、自力で正義を実現しようとする。その正義の実現のために手を貸すのが賞金稼ぎである。したがって賞金稼ぎには一定の存在理由が認められ、社会的に排斥されることは少なかったらしい。

この映画に出てくる賞金稼ぎは、クリント・イーストウッド演じる老いたる農民である。その農民が、貧困に苦しみ、まだ小さな子供たちのために金を得ようとして賞金稼ぎの仕事に手をそめる。その賞金をかけたのは、カウボーイにひどい仕打ちを受けた娼婦たちだった。全身を切り刻まれ、家畜のごとき扱いをうけた娼婦たちが、怒りにもえて正義の実現を求め、賞金稼ぎを雇うのだ。

イーストウッドは、二人の仲間とともに、仕事場である町へ出かけていく。その町の保安官は、よそ者に強い警戒心を抱いていた。とくに賞金稼ぎを敵視していた。たまたま街にやってきたある男を、賞金稼ぎやほかのよそ者への見せしめのために、袋叩きにして町から追い出す。そんな保安官のいるところにイーストウッドらは入っていく。

イーストウッドは保安官によって瀕死の重傷を負わされたりするが、賞金の標的である二人のカウボーイを殺すことに成功する。それに怒った保安官は、イーストウッドの仲間の一人、黒人のネッドをリンチのうえに殺す。それに対してイーストウッドが復讐し、保安官やその一味を平らげる、というような内容である。

この内容からわかるとおり、この映画は、開拓時代だとはいえ、ほとんど機能しないばかりか腐敗にまみれたアメリカ司法システムへの懐疑を感じさせるものである。アメリカ人はいまでも、司法を本気では信頼しておらず、なにか事件に巻き込まれると自力で解決する傾向を持っていることは、様々な映画からわかるとおりである。そういう文化的傾向は、司法が強い影響力を行使している日本では、なかなか思い浮かなばいところである。






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