クリント・イーストウッド「ミリオンダラー・ベイビー」:女子ボクサーと尊厳死

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クリント・イーストウッドの2004年の映画「ミリオンダラー・ベイビー(Million Dollar Baby)」は、プロボクサーを目指す貧しい女性が、実力と運で人気ボクサーになりあがった末に、試合中に被った怪我がもとで廃人になる過程を描く。スポーツ根性ものの要素に、ヒューマンドラマの味を加えたような作品だ。

女子ボクサーをヒラリー・スワンクが、彼女のトレーナーをクリント・イーストウッドが演じている。映画の見どころは随所にあるが、もっとも印象深いのは、ヒラリーが怪我のために廃人となり、それに絶望して尊厳死を望むところだ。ヒラリーから尊厳死のほう助を頼まれたイーストウッドは、当初は拒絶するが、結局死なせてやることを選ぶ。彼は彼女から、父親が老いた犬を安楽死させてやったという話を聞き、彼女が尊厳死を望むことにはそれなりの理由があると納得したのだ。

そいうわけでこの映画は、尊厳死を考えさせる内容を持っている。だから単純なスポーツ映画ではない。尊厳死へのこだわりと並んで、老いた男と若い女(といっても三十過ぎだが)との触れ合いが情緒たっぷりに描かれる。その触れ合いは、男女の恋愛というより、父と娘との関係を思わせるようなものだ。イーストウッドは孤独な老人で、一人娘との文通もままならない。寂しいのだ。その寂しさを、ボクサーをめざす女を相手に、まぎらわせようとする。

この映画にはもう一人存在感のある男が出てくる。黒人俳優モーガン・フリーマン演じるジムの管理人だ。映画はこのモーガンが、イーストウッドの娘に向かって、かつての父親の生き方を語ってきかせるという構成をとっている。映画を進行させるナレーションは、かれの声なのである。モーガン・フリーマンは、「許されざる者」にも出ており、イーストウッドとのつながりが深かったようである。そのフリーマンの演技もあって、この映画は、人の心に強く訴えかけるものがある。






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