ドイツがロシアをナチ呼ばわりするのは日本が中国を敵視するのと同じ心理機制

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先日ドイツ政府の高官がロシアをナチ呼ばわりするということがあった。西側の全面的なロシア憎悪に悪乗りしたのだと思うが、こういう言説をきかされると、語るに落ちた妄言と感じざるをえない。かつてかれらの祖先がソ連に戦争を仕掛け、2600万にのぼるロシア人を殺したのは厳然とした歴史的事実だ。そのナチスドイツの子孫が、自分たちの祖先が殺しつくしたロシア人を相手に、ナチ呼ばわりするというのは、ブラックジョークにもなるまい。だが、一日本人として、そうとばかりも言っていられない。今の日本人も同じようなことをしているからだ。今の日本人は、かつて自分たちの祖先が侵略した中国を、全体主義国家だとかなんとか理屈をつけて、公然と敵視し、あわよくば新たな戦争を仕掛けかねない勢いである。

ドイツ人がロシアをナチ呼ばわりすることで、ナチの犯罪をロシアになすりつけ、自分たちは免罪されようと考えているとしたら、それは猿知恵というべきである。いくらドイツがヨーロッパの盟主にまで上り詰め、ヨーロッパの命運を代表する形でロシアと立ち向かっているとはいえ、そのことで、ドイツは完全な意味で正義の味方であり、その正義の味方であるドイツは、正しいことをしているのであるばかりか、常に正しかったのだと言い張ることはできまい。これまでドイツは、ナチの犯した犯罪への責任を受け入れ、かつて侵略した諸国に対して卑屈ともいえる謙虚な態度をとってきたが、それは、ドイツの地政学的な理由による。ドイツはヨーロッパのど真ん中にある国として、ヨーロッパ諸国から絶縁されては生きていけなかった。それゆえ、自分の過去に対しても謙虚だったわけだ。だが、それはなかば強いられたことだった。その強制が働かなくなると、ドイツという国はどうも、尊大になるようである。

かつての侵略国に対して日本が戦後謙虚に振舞ってきたのも、なかば強制されてのことだった。だがその強制は、侵略したアジア諸国から課せられたのではなく、アメリカによって課せられたものだ。そのアメリカが、近年日本への強制を緩めた。背景には厳しい米中対立がある。アメリカはこの対立関係をめぐり、アジア諸国を味方に付けようとして色々画策しているところだが、その一貫として、戦後日本に課してしてきた強制を緩めるようになった。具体的には、歴史認識について日本に注文を付けなくなったこと、また、中国を仮想敵としたアメリカの様々な政策に日本を同調させようとするあまり、或る意味日本を増長させるようなことをしてきたことなどだ。

ドイツの動きにもどると、ドイツがウクライナへの支援に踏み切ったのは、ウクライナ人への人道的な意味での同情からなどと言われているが、そこにロシア憎悪が働いていることは否定できまい。ソ連に戦争を仕掛けたのはドイツであり、その結果2600万人のロシア人を殺したわけだが、ドイツも多大な損害を出しており、したがってロシア人に対する陰にこもった悪意はまだ消えないでいると思われる。その悪意が、今般のウクライナ戦争をきっかけに高まった反ロシア憎悪の集団ヒステリーに便乗する形で、ロシアをナチ呼ばわりする事態をもたらしたのではないか。

一方日本の中国敵視の公然化は、アメリカの対中憎悪に便乗したものといえよう。日本は中国に対してなんらの負い目も持っていないと大多数の日本人は思っている。日本が対中関係で謙虚に振舞ってきたのは、アメリカに強制されてのことで、日本人が内発的な考えにもとづいてやったことではない。だいたい日本は対中戦争に勝っていたのであり、別に中国に負けたわけではない。中国が日本に向かって大きな顔ができるのは、アメリカの対日勝利に便乗できたからだ。そのアメリカがうるさいことを言わなくなったので、今や日本は、中国に対して本音をぶつけることができる。中国は今の世界の普遍的な価値である民主主義とは無縁な国であり、したがって体制転換をさせるか、あるいは無力化させるほかはない、という理屈を弄しながら、日本は対中敵視を深化させている。だが、どんな理屈を弄しても、日本が中国相手に戦争を始める理由にはなりそうもないし、かりに戦争になったとして、日本が単独で中国に勝てる見込みはほとんどない。また、アメリカの尻馬に乗って戦争を始めることになっても、戦争を合理化するだけの理屈は成り立たないというべきである。

ともあれ、今の日本とドイツとは、敗戦による犯罪者扱いの境遇を脱して、一人前の処遇を受けたいと願っているように見える。そのためには強くならねばならない。その願望が、敵を必要としているわけで、要するに、ドイツと日本は同じような心理機制に駆り立てられているといえそうである。





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