恩地日出夫「四万十川」:少年の成長を描く

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恩地日出夫の1991年の映画「四万十川」は、四国の四万十川を舞台にしながら、ある少年の成長を描いた作品、四万十川を舞台にした少年の物語映画としては、東陽一の「絵の中の僕の村」が想起されるが、恩地のこの映画はそれよりも先に作られた。四万十川の美しい自然を背景にして、少年の瑞々しい感性を描いたこの作品は、少年の成長をテーマにした映画の中でも白眉といってよいだろう。

四万十川中流域の宇和島に近いところにある村が舞台なのだろう。時代設定は明らかでないが、おそらく高度成長が始まる頃のことと思わせられる。人々の暮らしぶりは、いかに寒村とはいっても、まだ物質的な豊かさには遠い。潮岬を襲った台風のことが出てくるが、あれは伊勢湾台風か第二室戸台風のことだろうか、とすれば、1960年前後ということになる。

両親と五人の子供たちからなる一家をめぐる話である。次男で小学校5年生の少年アツヨシの視点から映画は展開する。父親は出稼ぎに出ており、母親が小さな雑貨店をやっている。長女はもうすぐ中学校を卒業し、卒業後は町で就職したいと思っている。四国の山奥では、働くところがないからだ。そんな折に、父親が労働災害で大けがをする。母親は、将来の暮らしに不安を抱き、長女には家に残って家事を手伝えと言う。長女はいやだと答える。

一方、アツヨシは学校ではいじめられながらも、なんとか元気でやっている。クラスの他の子からひどいいじめを受けている女子(千代子)がいるのだが、気の弱いアツヨシは、その子をかばってやれない。そのことを家族に話すと、長女や長男から批判される。弱い子がいじめられているのに黙っているのは、いじめに加担しているのと同じだといわれるのだ。

あるとき、消しゴムがなくなって、千代子が濡れ衣を着せられそうになる。先頭になって千代子を責める同級生に対して、アツヨシは勇気をふるいたてて立ちむかう。そこを担任教師に見とがめられて折檻されたりするが、アツヨシは毅然としている。腹いせに、相手の家の井戸に小便をひっかけるほどである。

アツヨシには仲良しの友達がいて、その子と一緒に四万十川で魚をとるのが楽しみである。ウナギがとれたりする。とれたウナギは店で売るのである。だが仲良しの友達は、出稼ぎに出ていた両親のもとへ引き取られて去っていく。

父親が退院して、身体の回復を待つ。父親は長女の願いをききとげてやれと妻にいう。妻は同意する。かくて長女は町に出、父親もまた出稼ぎに出る。アツヨシは、一家の柱として母親をたすけていかねばならないと思う、というような内容の作品である。

これといった劇的な変化はないが、少年がすこしずつ成長していく過程が丁寧に描かれていて、非常に共感を持てる作品である。母親を演じた樋口可南子がなかなかいい雰囲気だ。






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