写真術を芸術の高みに引き上げるナダール:ドーミエの風俗版画

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国内向けに政治風刺を行うことをはばかったドーミエは、風俗版画に力を入れるようになった。「写真術を芸術の高みに引き上げるナダール(Nadar élevant la Photographie à la hauteur de l'Art)」と題するこの石版画はその一枚。当時興隆しつつあった写真術を象徴する人物ナダールをモチーフにしたものだ。ナダールといえば、ボードレールの肖像写真があまりにも有名だが、ドーミエとも親交があった。ドーミエはナダールを商売敵と考えていたようだ。

気球に乗ったナダールが、上空からパリの街並みを撮影している構図だ。ナダールの大空への上昇を、写真術を芸術の高みへと引き上げることにたとえている。写真が芸術とみなされれば、芸術を標榜する版画の出番がなくなる。そんなドーミエなりの危機意識が感じ取れる作品だ。

気球に記されているナダールの文字柄は、ナダール自身の名刺に刻されている文字柄をそのまま採用しているそうだ。

(1862年5月 石版画 44.8×30.9㎝ 雑誌ブールヴァール)





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