公益資本主義とは何か

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岩波の雑誌「世界」の最新号(2023年6月号)が、「もうひとつの資本主義」と題する特集をしている。副題にあるとおり、「宇沢弘文」に関した論文が中心になっているのだが、なかに宇沢とは別の問題意識で日本の資本主義ののぞましいあり方をテーマにした面白い対談が載っている。上村達夫と原丈人の「公益資本主義とは何か」と題する対談である。上村は商法学者、原は実務家ということで、斬新な見地から日本の資本主義を見ており、頭のわるい経済学者よりずっと適切な処方箋を考えているといった感じだ。

ふたりとも、日本の資本主義が株式資本主義に陥っているために、構造的な問題を抱えているという認識を共有している。株式資本主義は、会社の利益のすべてを株式に還元しろという主張で、目先の利益にこだわるあまり、長期的な視点が欠けている。というより、株主というものは、そういうものであって、かれらの言うとおりにしている限り、長期的な目標を念頭においた会社運営はありえない。それではいけないのであって、会社は長期的な視点にたって、社会的な責任をもっと果たすべきだというのが、かれらの意見である。

そうした認識にたったうえで、上田は、企業の行動を変えさせることが重要だと主張する。具体的には、2000年からの20年間で、株主への配当は10倍になった一方、社員の給料は据え置かれてきた。もし企業が配当の一割を給料アップにまわせば従業員の給料は倍になる。これを日本全体でやれば、賃金が底上げされてその分需要が拡大し、経済は好循環する。そういう大局的な視点をもつことが必要だと原は言うのである。

上村は商法学者としての立場を踏まえて、日本の会社法体系が、株主の利益を中心にしたものに変わってきたという点を問題視している。日本の会社法はもともとは、ヨーロッパの経験知にもとづく安全装置が詰まったものだったのに、ここ三十年のうちに、そうした安全装置を引っ剥がして、規制緩和をすすめ、その結果、株主を設けさせるだけのことになってしまった。株主の多くは、日本の会社の将来には関心をもたず、ただ短期的な収益のことばかり考えている連中である。

以上のような認識を踏まえ、原は具体的な提案として、日本は金融資本経済の牙城であるEUやTPPばかりに目を向けないで、RCEPに肩入れしてリアル・エコノミーを主導すべきだという。グローバルで儲けを最大化したいという資本家を喜ばせるのではなく、実体経済を地道に追求すべきだというのである。

一方上村のほうは、短期的な株主価値最大化をいうような企業法制の発想を大きく転換し、会社を長期的に強化・充実させるような方向を目指さねばならぬという。

要するにふたりとも、投資家を儲けさせることばかり考えるのではなく、日本のこれからの国の形を考えなければならないというのである。望ましい国の形をふたりとも、「健康で教育を受けた豊かでゆとりのある中間層であふれる国」だとして、そういう国づくりを目指して行くべきだと言うのである。そういう考えには小生も賛成である。原は、岸田首相にアドバイスできる立場にあるそうだから、岸田のいう「新しい資本主義」を、かれのいうような方向に導いてやってほしいものだ。





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