ウクライナ戦争の終わらせ方:藤原帰一「戦争とナショナリズム」

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藤原帰一は国際政治学の視点から、現代社会について考察し、様々な媒体を通じて意見を発信しているようだ。岩波の雑誌「世界」に連載している「壊れる世界」もそうした発信の一つであり、小生は毎号読んでいる。最新号(2023年6月号)では、「戦争とナショナリズム」と題して、21世紀になって大規模戦争の可能性が無視できなくなり、それをナショナリズムが支えているという分析をしているのだが、その中で一つ、ウクライナ戦争の終わらせ方をめぐって藤原の提示するオプションにたいへん興味を覚えた。

藤原は、ウクライナ戦争の終わらせ方にはいくつかの可能なパターンがあるとしながら、ロシアによる一方的な停戦が最も現実性が高いと言う。ロシアが一方的に停戦を提案すれば、ウクライナはそれを無視するわけにもいかないだろうし、NATO諸国のなかに、ウクライナ支援への疑問を広げることはできる。一方、ロシアにとっては、侵攻後に新たに制圧した地域を確保できる可能性が発生する。というわけで、ロシアにとっては、ウクライナ全土を制圧できる可能性がほとんどないなかで、実質的に降伏するどころか、有利な選択になる、というのである。

じっさいロシアは、ドンバス地域など制圧した地域の外縁にそって長大な防衛陣地を築き、ウクライナの攻撃に備えていることが確認されている。ロシアは、自分から戦争を仕掛けることにはたけてはいないが、守りの戦争には強いという伝統がある。一方的な停戦によって戦線を膠着状態にさせ、それによって獲得したものを守り抜くということは、かれらの得意とするところだろう。

以上は十分ありうる話だと思う。いまロシアとウクライナを仲介できるのは中国しかないと言われているが、その中国は、ロシアの面目をたてながら停戦を実現させたいと思うだろう。その中国が、ロシアによる一方的な停戦を提案したら、プーチンが乗る可能性はあると思う。

無論こんなやり方では事態が根本的に解決されることにはならないわけで、リアリズムの重要性を強調する藤原もさすがにそれを推奨する姿勢は見せない。基本としては、最低でも2022年の侵攻以前までロシア軍が撤退する必要があると言っている。

日頃奥歯にもののはさまったような言い方ばかりしている藤原としては、がらにもなくリアリスティックな考察だと思う。





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