片岡仁左衛門「松浦の太鼓」をノーカットで見る

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先日、上方歌舞伎の人気者片岡愛之助の「女殺油地獄」をNHKのテレビ放送で見て、いたく感心したところだったが、今度は上方歌舞伎の総帥にして、人間国宝に措定されている片岡仁左衛門の特集をやるというので、是非もなく見た次第だ。「松浦の太鼓」をノーカットで放送するほか、仁左衛門が過去に演じた当たり役を紹介していた。仁左衛門の当たり役として人気があるのは、愛之助も演じた「女殺油地獄」の与兵衛とか、「菅原伝授手習鑑」の菅丞相などがあるそうだ。

「松浦の太鼓」は忠臣蔵外伝というような設定で、明治以降に舞台上映され、初代中村吉右衛門が得意としたそうだ。平戸藩主松浦重信が主役で、それに俳諧仲間の宝井其角と赤穂浪士大高源吾がからむ。重信は、赤穂事件に関心を持ち、赤穂の浪人らが主君の仇をうつことを期待しているが、なかなかその様子が見えないので、赤穂浪士の大高源吾やその妹に当たり散らす。だが、赤穂浪士らが吉良邸に押し入って、見事仇を討ったと知り、大いに喜ぶというような筋書きだ。松浦の太鼓というのは、隣家である吉良邸から聞こえてくる、山鹿流太鼓の音をいう。その音を聞いて、重信は太鼓仲間の内蔵助が討ち入りしたということを認識するのである。

筋書き自体は、馬鹿馬鹿しいほど単純だが、仇討ちが実現して正義が貫徹されることを願う昔の日本人の素朴な道徳観が、いやみなのない説得力を持つというのがミソだ。そのいやみのなさを演じ切るのが歌舞伎役者の芸の見せどころというべきである。

この芝居の中での仁左衛門は、松浦重信の人物像をコミカルに演じており、そこに観衆は、ただに道徳的な満足感だけではなく、芝居を楽しむ喜びを感じるのではなかろうか。






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