タッチ・オブ・スパイス:ギリシャ現代史の一齣

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2003年のギリシャ映画「タッチ・オブ・スパイス(Πολίτικη Κουζίνα タンス・プルメティス監督)」は、ギリシャ現代史の一齣を描いた作品。ギリシャ現代史については、テオ・アンゲロプロスが壮大な視点から俯瞰的に描いた映画があるが、これは、ギリシャとトルコの対立に焦点を当てたものだ。ギリシャとトルコは長らくキプロス島をめぐって対立してきた歴史があり、1955年と1964年には大規模な軍事衝突に発展した。一方、トルコの大都市コンスタンティノポリスには大勢のギリシャ人が暮らしており、そのギリシャ人がトルコによる迫害の対象になったりした。この映画は、迫害されてトルコを追われたギリシャ人家族の物語なのである。

主人公の家族は、ずっとトルコで暮らしてきたところを、国家間の対立に巻き込まれてトルコを追放される。だが、祖父だけはトルコ国籍を持っていたおかげで、追放を免れる。そこで祖父をトルコに残して、主人公と両親がギリシャに移住する。その少年が大人になったときに、祖父がギリシャにやってくると言ってきた。再会に期待した主人公は、かつての祖父との暮らしを思い出す。その思い出を描きながら映画は展開していくのだ。

主人公の記憶の中でもっとも大きな意義を持っていたのは、祖父からスパイスの使い方を手ほどきされたことと、近所に住んでいる少女と淡い恋をしたことだ。タイトルにもあるとり、少年のスパイスへのこだわりが、この映画の原動力となる。少年が少女と親しくなったのも、スパイスを通じてだ。少年は少女にスパイスの使い方を教えてやった見返りに、少女の踊りを見せてもらった。トルコ風の踊りである。その踊りに魅せられて、少年は少女に恋をするのだ。その時に少年は十歳くらいだったろう。十歳での初恋が、早いのかそうでないのか、小生にはわからない。小生の場合、奥手ということもあって初恋は高校生になったから体験したものだ。年齢の相違はあるが、初恋のときめきは変わらないと思う。

そんなわけでこの映画は、スパイスをきかせながら、トルコとの対立を軸としたギリシャ現代史を描くことに主眼を置いている。両国はなぜ対立せざるを得なかったか、それについては踏み込んでは語らない。ただ、国家間の対立が個人の運命を左右してしまう切なさに触れているだけである。21世紀の現在、ギリシャ・トルコともにNATOのメンバーになっており、もはや両国間の対立は乗り越えられたといってよい。だから今後、ギリシャ人とトルコ人とが国境を挟んでにらみ合うようなことは起こらない可能性が強い。






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