キム・ギドク「弓」 韓国版「痴人の愛」

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キム・ギドク(金基徳)の2005年の映画「弓」は、韓国版「痴人の愛」というべき作品。少女を自分好みの女に育てあげようとした中年男が、女に成熟した相手に翻弄されるというのが谷崎の小説のテーマだが、この韓国映画は、十歳の時にさらってきた少女を、十七歳になったら自分の妻にしようと思う初老の男が、女に成熟した相手から翻弄されるのである。

男は釣り船を営んでおり、少女とともに船暮らしをしている。教育も受けさせていない。釣り客の中には、少女に性的関心を示したり、中には強姦しようとするものもあるが、そのたびに撃退する。だいたいは、男が得意の弓を使って撃退するのだが、返り討ちにあうと、少女が機転を利かせて撃退する。

そのうちに、若い男が釣りにやってくる。少女はその男に一目ぼれする。それを見た初老の男は嫉妬する。男はカレンダーに、少女が17歳になる日をマークし、その日が早く訪れることを願っている。その日には正式に結婚して、セックスも堂々とできるのだ。韓国では、女性が自分の意思で結婚できる年齢が十七歳ということらしい。しかし少女にはそんな気はない。若い男が帰りしなにくれたウォークマンに夢中になるのだ。

若い男が再び釣りにくると、少女はあからさまに男への執着をしめす。それをみた初老の男はさらに激しく嫉妬し、若い男に弓を向けたりする。少女は夜半若い男の布団のなかにもぐりこんで、自分の愛を表現する。焦った初老の男は、若い男を追い出しにかかる。若い男は、初老の男に向かって、幼い少女を誘拐したのはけしからぬ、両親がさぞ心配しているだろう、自分は両親を探し出して戻ってくると宣言する。

ややして若い男がやってきて、少女に両親の写真を見せる。少女は心が騒ぐ。そして若い男とともにボートに乗って脱出をはかる。だが思い直して親船に戻る。初老の男が自殺をはかったと知ったからだ。彼女は初老の男を憎んでいるわけではなく、ただ自由になりたいだけなのだ。そこで、妙案を考え出す。初老の男とは形式上の結婚式をあげ、そのあと、若い男とともに世間に出るという案である。一石二鳥というわけである。

こんな具合に、かなり現実離れした内容の映画である。なお、タイトルにある「弓」は、武器としての弓のほか、二弦琴の弓を兼ねあらわしている。






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