アシル・アンプレール(Achille Emperaire)の肖像画は、セザンヌの初期の代表作。セザンヌの初期の画風は、これといった特徴はないが、ロマン派風の暗い色調の作品が多い。この肖像画もそうした感じの作品だ。ただ、縦2メートルの巨大な画面に、ひとりの人物が異様な存在感を放っており、人物描写におけるセザンヌの非凡性を感じさせはする。
モデルのアシル・アンプレールは、セザンヌより10歳年上の画家で、1860年代初頭にパリで出会って以来、十年ほど仲良く付き合った。この絵は、1867年から1868年にかけて制作されており、二人が非常に仲のよかった時期である。
アシルは、生まれつき小人でしかも背虫だった。この絵はそうしたかれの身体的な特徴を、過度に強調しているように見える。もっとも本人のイメージは矮小さを感じさせず、むしろ厳かな雰囲気を漂わせている。アングルの「皇帝の玉座に座るナポレオン1世」を彷彿させると評するものもいる。
アシルは画家としては成功しなかった。セザンヌがこの肖像画を残さなかったら、忘れられた存在になったであろう。
(1868年 カンバスに油彩 201×121㎝ パリ、オルセー美術館)
コメントする