キム・ギドク(金基徳)の2009年の映画「悲夢」は、エンタメ性の強いサスペンス映画である。キムには「サマリア」や「うつせみ」のような強い社会的視線を感じさせる作品がある一方、「弓」や「絶対の愛」などエンタメ性の強い作品もある。この「悲夢」は後者の系列に属する。男の夢のなかの出来事が、夢遊病の女によって演じられるといった内容で、一つの夢を共有する男女の話といった具合。ややオカルトがかった筋書きである。
男を日本人のオダギリジョーが演じている。映画のなかのオダギリは、日本語しか話さない。ほかの登場人物はすべてハングルである。それでも意思疎通はできる。あたかも、日本語とハングルは同じ言葉のように話されている。なにしろオダギリが、女に向かって日本語で話しかけると、女はハングルで答え、それで意味が通じ合うのである。
オダギリが交通事故を起こすところから映画は始まる。運転する車が別の車と衝突し、相手を怪我させたまま、その場を逃げ去るというものだが、実はそれは、オダギリの夢だった。ところがその夢の内容と全く同じ事故が起きていて、ひき逃げの容疑者として女が逮捕される。女は身に覚えがない。夢遊病者は自分の行動を覚えていないのだ。
それがきっかけで、二人は急速に接近する。とにかく、オダギリが夢を見ると、女はかならずそれを演じて見せるのだ。霊媒のような女に相談すると、わけのわからぬアドバイスを受ける。しかしそのうち、この不可解な現象が起きるのは、二人とも寝ている時間に限るということがわかってくる。その寝ている時間にオダギリが夢を見ると、女が夢遊病になってそれを演じるという仕組みだ。そこで、二人一緒に寝ないように、どちらかが目を覚ましていようと申し合わせる。だが、なかなかうまくいかない、といったような内容だ。
キム・ギドクは、この映画の撮影中に、俳優を危険な目にあわせたことを深く反省し、一時期現役から退いた。そのいきさつについては、「アリラン」というドキュメンタリー映画のなかで詳しく触れている。その危険な目にあわせたというのは、おそらく車の衝突のシーンにかかわるのだろう。
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