アンブロワーズ・ヴォラールは非常に有能な画商で、多くの画家と付き合いがあった。色々な画家に自分の肖像画を描かせた。ボナール、ルノワール、ピカソの描いたヴォラールの肖像画がよく知られている。セザンヌと古くから交流があったわけではなく、タンギーの店にかかっていたセザンヌの絵を見たヴォラールが、当時プロヴァンスに引っ込んでいたセザンヌを探し出し、多くの作品を買い求めた。それらの絵を、セザンヌの個展という形で世に出した。セザンヌはその個展がきっかけで広く知られるようになる。
この肖像画は、ヴォラールの求めに応じて描かれている。セザンヌはヴォラールを自分のアトリエにすわらせ、長時間ポーズをとらせた。ヴォラールが動こうとすると、モデルはリンゴと同じなのだから、リンゴが動かないように、モデルも動いてはならぬとセザンヌはいさめたという。
ヴォラールは窓辺に据えられた椅子に、足を組んだ姿勢でポーズをとっている。右手は膝の上で本をもち、左手はポケットに突っ込んでいる。目はうつむき加減で、物思いにふけっているようである。ちょっと見た目にはわからぬが、塗り残しの部分があったり、未完成を感じさせる。だがヴォラールはこの絵が気に入り、死ぬまで手元におき、死後にプチ・パレに寄贈した。
(1899年 カンバスに油彩 101×81㎝ パリ、プチ・パレ)
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