イングマール・ベルイマンの1950年の映画「歓喜に向かって(Till Gladje)」は、スウェーデン人の男女関係のあり方を感じさせる作品。スウェーデン人は、女性の自立性への希求が強く、男女は平等だという意識が強い。それに比べて男性のほうは、まだ男尊女卑的な気持ちを捨てられないでいる。そのギャップが男女関係を不安定にし、夫婦の関係に波乱をもちこむ、といったことを考えさせるようにできている。世界の映画史上、ベルイマンはもっとも早くフェミニズムの傾向を表現した作家といえるが、この映画はそんなベルイマンのフェニミズムが盛り込まれた作品である。
楽団でバイオリニストをしている男に緊急の知らせが入る。妻がガス爆発事故で死んだというのだ。子供も事故に巻きこまれたが、死ぬことはないだろう。そう知らされた男は、過去を回想する。妻とのなれそめから、最近まで七年間のことだ。映画は、かれの回想を追うという形で展開していく。
男(スティーグ・オリーン)と女(マイ・ブリット・ニルソン)が、あるオーケストラに補充要因として採用される。二人はさっそく接近する。女は結婚してくれとほのめかすが、男はためらう。だがセックスはしたい。そんな男を女は身勝手だと思う。男は女が妊娠してもすぐさま責任を取ろうとしない。女はあきれる。だが、二人の絆は強く、結局は結婚する。式には彼らを採用してくれた楽団指揮者も出席する。
かくて家庭をもった二人だが、仲たがいは絶えない。しかし子供を二人持つようになって、夫婦関係は安定に向かう。そんな矢先に女が事故で死ぬのだ。単なる事故なのか、それとも何か背景があるのか。そのへんはわからない。この映画はあくまでも男の回想という形をとっており、男には妻が死に急ぐ理由はわからないのだ。
映画は、ベートーベンの歓喜の歌のリハーサルを映すところから始まる。その後、随所でオーケストラの演奏光景が流される。だから観客は、クラシック音楽の演奏会にいるような気分になれる。ベートーベンのほか、メンデルスゾーンのバイオリン・コンツェルトも演奏される。ソロのバイオリンはスティーグが担当する。
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