イングマール・ベルイマンの1953年の映画「道化師の夜(Gycklarnas afton)」は、サーカス団員の人生模様をテーマにした作品。座長アルベルト(オーケ・グレンベルイ)の生き方を中心に展開していく。そのアルベルトは、妻子の住んでいる町に立ち寄り、一緒に人生のやり直しをしないかと申し入れるが拒絶される。かれには愛人がいるのだが、その愛人が激しい嫉妬心を抱き、腹いせに他の男と寝る。それを知ったアルベルトは、相手の男に戦いを挑むが、返り討ちにあってのされてしまう。逆上したアルベルトは、一時は自殺しようともするが、思い直して、うっぷんばらしをクマを殺すことでやる、といった内容だ。
スウェーデンのサーカスがどんな環境に置かれているか、多少はわかるように作られている。東ヨーロッパでは、ロマがサーカスの主要な担い手らしいが、スウェーデンではそうではない。遊び好きな人間がやっているといった印象だ。だが、官憲による迫害など、厳しい差別にさらされていることは伝わってくる。
映画は、七年前のある光景を映すところから始まる。サーカスの女芸人が、土地の男たちのもて遊びものにされているところへ、夫の道化師がかけつけて女房を取り戻す場面だ。その道化師夫婦は、アルベルトともっとも深いつながりがある。アルベルトが殺すクマは、道化師の妻が可愛がっていた。それを殺されて、道化師の妻はなげく。
タイトルは「道化師の夜」だが、その道化師は、本物の道化師ではなく、座長アルベルトをさすらしい。アルベルトは、勝手気ままに生きてきたらしく、いまでも若い女を愛人にしている。そのことをそのままにして、昔の妻とよりをもどそうとする。拒絶されるのは当然のことだ。だがかれには、妻に拒絶される理由がわからない。また、若い愛人の気持ちも理解できない。もっとやさしくしていれば、愛人を他の男に寝取られることもなかったであろう。
そんな具合に、道化といってよいほど世の中から疎外された男の生き方がこの映画のテーマだ。それまでのベルイマンは、スウェーデン女の生き方にこだわった映画を作ってきたのだったが、この映画では、中年男の生き方にはじめて焦点をあてて映画を作ったわけだ。
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