エリック・ロメールはヌーヴェルヴァーグの最後の作家で、処女作「獅子座」を公開したのは1963年のことだ。ヌーヴェルヴァーグの運動は1960年代の半ばごろには終わり、その後はそれぞれ独自の映画作りをするようになった。エリック・ロメールは、作家としては遅咲きであり、彼の名声が高まるのは1980年代以降である。
「飛行士の妻」は1981年の作品で、「喜劇と格言劇」シリーズの第一作目となる。6作からなるこのシリーズで、ロメールは名声を確立した。ロメールの作風は、洒落た男女関係を、パリの街景をバックに描くというもので、ヌーヴェルヴァーグの余韻を感じさせるものである。
「飛行士の妻」と題するこの映画は、複数の若い男女の恋の戯れを描いている。主人公は二十歳の男子学生。かれには5歳年上の恋人がいる。その恋人は、昔の恋人が忘れられない。ところがその昔の男が、妻に子供が生まれるのを契機に妻と同居したいと言い出す。その男は飛行士なので、タイトルからは彼の妻が映画のキーパーソンになるのかと思えば、そうではない。彼の妻はこの映画には出てこないのである。
学生は、ふとしたことから、飛行士が恋人の部屋から出ていくところを見てしまう。しかもその男が、見知らぬ女を連れているところまで見てしまう。そこで、興味を抱いたかれは、飛行士と女を尾行する。これと言った目当てはないのだが、恋人の愛人が他の女といることに強い興味を抱くのだ。そんな学生に、一人の少女が関心を示す。15歳のこの少女は、学生とともに飛行士と連れの女を尾行する。その尾行のシーンが、この映画の見所である。
学生は、恋人から飛行士の妻の写真を見せてもらい、飛行士が連れていたのは妻ではなく他の女だと知る。だがそのことを恋人にはばらさない。ばらしたら恋人は傷つくだろう。一方、15歳の少女は他の男とつきあっている。そんなわけでこの映画は、勝手にくっついたり離れたりする若い男女の生き方を、軽快なタッチで描き出しており、いかにもフランスらしい映画といえる。
学生の年上の恋人が、愛いあうのと一緒に暮らすのは別のこと、と言うシーンが印象的である。一緒に暮らすことで束縛されたくない、という気持ちがこもっている。それに対して学生のほうは理解できないといった表情をする。フランス人は女性のほうが開放的だということだろう。
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