エリック・ロメールの1984年の映画「満月の夜(Les nuits de la pleine lune)」は、若いフランス女の奔放な生き方を描いた作品。性的にも道徳的にも、なにものにも束縛されず、自由気ままに生きる一人の若い女の生きざまを描いたものだ。フランス女の尻の軽さは昔から広く知られていたが、この映画の中のフランス女は、出会ったばかりの男ともあっさり寝るほど尻が軽い。寝るのは挨拶がわりと言わんばかりだ。村上春樹の小説の人物たちが挨拶代わりにセックスするのは架空の世界のことだが、この映画の中のフランス女は、どうやら実際に存在しているように見える。
主人公の若い女ルイーズは建築家の男とパリ郊外に同棲している。彼女は男を愛してはいるのだが、年中束縛されるのはいやだと思っている。そこでパリ市内に部屋を一つ用意し、そこに妻子持ちの男を招く。だがその男とはセックスしない。友人として付き合いたいのだ。といって貞操にこだわっているわけではない。夜を共に過ごす相手がいないと、手当たり次第に男に電話をかけるくらいだ。そんな折に、ディスコで知り合った男と一緒になる。たまたま尻に欲情を感じていた彼女は、その男を一夜のセックス相手にする。
彼女の自分本位の生き方は、やがてしっぺ返しを食らう。同棲相手が、他の女と一緒になると言い出すのだ。そこでルイーズは、自分が捨てられたことに失望を感じる、というような内容だ。
この映画を見ていると、現代のフランス人は、ますます利己主義的になってきていて、特定のパートナーと持続的な関係をもつことにあまり価値を認めていないというふうに感じさせる。その傾向は男より女のほうに顕著に見える。経済的に自立できていれば、別に固定的な家庭を持つ必要はない。家庭はもっていても、それだけに縛られるのはいやだ。そんなふうに考える女が増えているということか。
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