ドロシー・ヘイルの自殺 フリーダ・カーロの世界

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「ドロシー・ヘイルの自殺(El suicidio de Dorothy Hale)」と題されたこの絵は、雑誌「ファニティ・フェア」の編集者クレア・ブース=ルースの依頼を受けて制作したもの。モデルのドロシー・ヘイルは、ニューヨーク社交界の花形で女優志望だったが、1831年に夫が死んだあと経済的困窮に陥り、1938年10月に、ニューヨークのハンプシャー・ビルの窓から飛び降り自殺した。ドロシーの親しい友人だったクレアが、ドロシーの生前の肖像画を母親に贈ろうと思ってフリーダ・カーロに制作を依頼したのだった。

フリーダはこの絵を、1939年8月に完成して、クレアに見せたところ、クレアはそれを破り捨てたくなるほど嫌悪した。生前の面影をしのぶことができる普通の肖像画を期待していたところ、自殺の様子がグロテスクに描かれていたからである。クレアはこの絵を破ることはしなかったが、ルースの母親に渡すことはせず、友人のフランク・クラウニンシールドに預けた。クラウニンシールドは後にルースの家族に返した。

高層ビルを背景に、一人の女性が窓から飛び降りる様子が、時間の順を追って描かれている。画面下には、地面にたたきつけられた女性が、苦痛に満ちた表情で横たわっている。この陰惨な描写は、当時のフリーダの心の中を反映していると解釈されている。当時のフリーダは、ディエゴとの関係が悪化し、悩みぬいていた。自殺願望もあったといわれる。この絵はそんなフリーダの自殺願望が表願されているというのである。なお、画面最下部には、ドロシーが自殺した事情が書かれている。

(1939年 布に油彩、木枠に彩色 60×49㎝ アメリカ、フェニックス美術館)






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