想田和弘の2012年の映画「演劇1」は、劇作家平田オリザと彼が運営する劇団青年団に密着取材した作品。想田一流の観察映画第三弾と銘打っている。実際は四作目だが、三作目の「Peace」は番外扱いだ。この映画は、以前の三作にくらべて非常に長い。しかも第二部が控えている。一部二部をあわせると五時間半にもなる。
始まってしばらくは稽古の様子を写す。ヤルタ会談の様子を描いた場面では、チャーチルの中東政策が皮肉っぽく描かれる。アラブの犠牲の上にイスラエル国家を建てさせようと談合する場面だ。それに続いて、外国暮らしの男女の会話とか、三人の女性の気まずい関係とかが披露される。
後半は、「火宅か修羅か」という台本の稽古と、その本番の様子がうつされる。これが映画のほぼ半分近くをしめる。前半と後半の間に、高校生との交流とか、劇団に入ることを希望する若者への採用面接とか、劇団の経営にかかわる金の出し入れの様子とか、さまざまな場面がうつされる。その中で平田は、自分は父親から譲られた劇場(こまばアゴラ)の支配人として出発し、そこで劇団を運営しながら自分の劇作品を手掛けるようになったと説明する。
平田の演出のスタイルを劇団員が批評する場面がある。平田は細かいところまで自分の意思をとおし、俳優の自主性には配慮しない、押し付けタイプだという。そう言いながら、平田を批判するわけではない。そういうやり方もあり、自分らはそれに納得していると割り切っている。
いよいよ地方公演が始まる。これは、2008年の公演で、岡山や鳥取に出向いた。題目は「火宅か修羅か」である。壇一雄の小説「火宅の人」を下敷きにした劇で、壇本人らしい男も登場する。その壇が再婚をめぐって三人の娘と衝突するというのが劇のあらすじらしい。
岡山は、想田にもゆかりの街だが、平田がそこを選んだのは偶然らしい。一日だけの舞台だったが、なかなかの入りだったようだ。舞台づくりには、専門のスタッフのほか、劇団員が総出で手伝う。劇団はある種の共同体という感じが伝わってくる。
そんなわけで、演劇の世界がなんとなく伝わってくる作品である。そういう世界にあこがれてくるものには、平田は厳しさを伝える一方、希望がないこともないと励ましたりする。
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