雑誌「世界」の最新号(2024年10月号)に、ハワイ在住のアメリカ人デヴィッド・T・ジョンソンの「日本ではレイプは犯罪なのか」と題した小論が掲載されている。日本におけるレイプ犯罪をめぐる司法や世論のあり方を批判したものである。その現状を論者は、「日本は性犯罪者の被害者にとって地獄」または「性犯罪者にとって夢のような狩場」とまで言っている。果たして日本はそんなひどい社会なのか。
まず、犯罪統計の数字から論者は現状分析を始めている。日本で起きるレイプ事件1000件につき有罪判決にいたるのは10~20件(1~2パーセント)にすぎない。そのうち投獄されるのは半数以下である。母数となるレイプ事件の数は、逮捕・起訴にまでいたったケースである。それは実際にレイプ被害の申したてがあったうちの5~10パーセントにすぎない。多くの事案では、被害者は警察等によって説得されてしまい、申し出を取り下げるケースが多い。そもそも被害を申し立てない女性が多い。その数の実態は把握しがたいが、申し出された件数の数倍になるだろう。ということは、日本ではレイプ犯罪を行っても、大部分の犯罪者が見過ごされているのである。
被害者が申し立てを行わないのは、一般市民の警察への信頼度が低いからだと論者は推測している。たしかに、被害を申したてても犯罪者の有罪につながる可能性が非常に低いのであれば、警察への信頼度も低下するであろう。検察にも問題があると論者はいう。日本では、起訴案件の99パーセントが有罪になるが、それは検察が起訴に慎重であることを反映している。検察官は有罪判決が出ることがほぼ確実な場合のみ起訴するのだ。その慎重な姿勢がレイプ犯罪に対しても適用されると、起訴に対してへんな抑止力がかかる。警察も検察も、レイプの被害者への同情が欠けていると言わざるをえない。今のやり方では、あまりにも多くの被害者を見捨てることになる。
有罪になった場合でも、刑罰は軽い。2020年の有罪判決1184件のうち半数以上(55パーセント)は執行猶予がついた。強盗犯の場合には執行猶予つきは25パーセントであり、窃盗犯でも48パーセントだった。レイプ犯は窃盗犯よりも優遇されている。日本では、人をレイプするより、ものを盗む方が罪が重いのだ。
2023年の刑法改正以前には、レイプ事件で有罪判決が出るには、被害者が抵抗することが著しく困難となるほどの暴行または脅迫がなければならなかった。そう決めたのは日本の裁判官たちである。法改正以後は、同意のない性交がレイプとみなされ、暴行や強制を証明する必要はなくなった。それは進歩だと論者はいう。だが、法の変更が実際に機能するには、日本社会の意識が変わらねばならない。いまでもレイプ被害を公に訴えることを臆する女性は多い。そんなわけだから、今後日本でレイプ被害を減らすためには、レイプは犯罪だという意識を浸透させていかねばならない、と論者はアドバイスする。小生もその通りだと思う。この調子では日本は、レイプ天国の汚名を取り払うことができない。
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